安全地帯に逃げる人
職場で失う「信頼」
職場でも同じです。会議でいつも端に座り、責任ある役割は避ける。発言を求められても「皆さんに合わせます」と言うだけ。自分の都合では動くのに、周囲が困っているときには気づかない。こういう人は、本人に悪気がなくても、「気が利かない」「視野が狭い」「自分のことしか考えていない」と見られやすくなります。
人は、相手の立ち位置や振る舞いから、その人の印象をかなり読み取っています。
ジャクソンらの研究では、テーブルを囲む人の配置図を見せて「誰がリーダーに見えるか」を参加者に選ばせたところ、テーブルの端、いわゆる“お誕生日席”にいる人がリーダーと見なされやすいことが示されています。これは、位置そのものがリーダーらしさの手がかりになることを示す研究です。もちろん、電車のドア横に立つ人の仕事力を直接測った研究ではありません。ただ、人は「どこにいるか」「どう振る舞うか」から、その人の役割や存在感を判断しやすいということは言えます。
非言語行動の研究でも、人は高さ、前後関係、姿勢、空間上の位置などから、相手の優位性や影響力を読み取ろうとすることが示されています。つまり、場所は単なる場所ではなく、周囲に与える印象の一部なのです。
ただし、この記事で本当に問題にしたいのは、「端にいる人はリーダーに見えない」という単純な話ではありません。仕事で問題になるのは、いつも安全な場所を選び、周囲の流れを読まず、自分の都合だけで行動してしまうことです。
たとえば、会議で毎回いちばん端の席に座るだけなら問題ではありません。しかし、意見を求められても何も言わず、面倒な役割は引き受けず、誰かが困っていても見て見ぬふりをするなら、それは単なる控えめさではなく、組織への関わりの薄さとして見られます。
職場で評価されるのは、目立つ人だけではありません。けれども、必要な場面で前に出られる人、周囲の状況を見て動ける人、他人の負担に気づける人は、信頼されやすい。逆に、いつも自分の安全地帯を守る人は、失敗を避けることはできても、抜擢される機会を逃しやすくなります。
(改ページ)「自己評価が高いだけの人」と「本当に周囲から慕われる人」の決定的な違い
自分勝手な人の末路
出世を遠ざける理由
この点は、職場での自己中心性に関する研究とも重なります。たとえばナルシシズム傾向を扱った研究では、ナルシシズムの高い人は自分自身のリーダーシップを高く評価しやすい一方で、他者からの評価や文脈的パフォーマンス、つまり周囲への貢献や協調的な働きぶりでは低く見られやすいことが示されています。要するに、本人は「自分はうまくやっている」と思っていても、周囲はそう見ていないというズレが起きやすいのです。
また、組織市民行動、つまり自分の担当範囲を少し超えて同僚や組織に貢献する行動は、職場での評価や組織の有効性と関係することが多くの研究で論じられてきました。アレンとラッシュの研究でも、組織市民行動が業績判断に影響する過程が検討されています。つまり、仕事では「自分の仕事だけしていれば十分」とは限らないのです。周囲に気を配り、必要なときに一歩動けるかどうかが、評価に響きます。
ドア横キープマン的な人が職場で損をしやすいのは、能力がないからではありません。自分の快適さや安全を優先するあまり、周囲がどう感じているか、全体の流れがどうなっているかを見落とすからです。
組織では、周囲から慕われる人ほど、自分の立場だけでなく、相手の立場も見ています。自分がどこに立てば全体が動きやすいか。自分が何を引き受ければ、他の人が助かるか。自分の一言で会議が前に進むか。そういう視点を持てる人は、自然と信頼を集めます。
反対に、自分本位な人は、短期的には楽な位置を取れます。目立たない。責任を負わない。批判されにくい。楽に成果を出せる。けれども、長期的には限界が来ます。周囲から「この人は自分のことしか考えない」と見られれば、重要な仕事は任されにくくなります。部下や同僚から慕われることも難しくなります。リーダーに必要なのは、自分の快適さを守る力ではなく、全体を見て動く力だからです。
では、どうすればいいのでしょうか。
(改ページ)「いつもと違う場所」に立つと見えるもの
「立つ場所」を変えると
見えてくるもの
大げさなことをする必要はありません。まず、会議では一度でいいので自分から発言してみる。長く話す必要はありません。「私はこう見ています」と一言添えるだけで十分です。
次に、役割分担では、毎回いちばん軽い仕事に逃げないこと。小さくてもいいので、責任が見える役目を一つ引き受ける。すると周囲の見方が少しずつ変わります。
そして三つ目が、物理的な位置を少しだけ変えることです。いつも端に座る人は、たまには真ん中寄りに座ってみる。電車でドア横に立つのが癖なら、毎日でなくてもいいので、一駅ぶんだけ奥へ入ってみる。自分の立ち位置を少し変えるだけで、自分が周囲をどう見ているか、周囲からどう見えているかに気づきやすくなります。
結局、問題は「ドア横」そのものではありません。問題は、自分にとって快適な場所を守ることに夢中で、周囲からどう見えているかを考えない姿勢です。
電車の立ち位置は小さなことです。けれども、小さな行動ほど、その人のいつもの思考が表れます。周囲の流れを見るのか、自分の場所だけを守るのか。前に出るべき場面で出られるのか、いつも安全地帯に逃げるのか。
その違いは、仕事でも確実に見られています。
ドア横をキープする癖がある人は、一度だけ考えてみるといいでしょう。自分は本当に必要があってそこに立っているのか。それとも、前に出ること、周囲に合わせて動くこと、全体のために少し譲ることから逃げているのか。
その答え次第で、仕事での見え方はかなり変わってくるはずです。
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