80年代になると、「小さな政府」を強く打ち出すレーガン政権が商船を建造する造船会社への補助金を打ち切り、業界は大きな打撃を受けた。バーカートさんは「米国の造船業を滅ぼしたのは米国自身だ」と語る。

 一方、中国の造船業は2000年代以降、国の産業政策と安い人件費を背景に台頭した。2024年の世界の造船市場(総トン数)は、中国のシェア(占有率)が55%を占め、韓国が28%、日本が13%と続き、米国はわずか0.04%だ。

 国の造船能力は、軍艦艇の建造能力にも直結する。米海軍情報局によると、の米海軍の艦艇保有数は271隻で、中国海軍の255隻を上回っていたが、15年時点20年には米海軍は296隻、中国海軍は360隻と逆転した。

巨額補助金を投じても
復活の道筋は見えない

 米国では造船業復活に向けた取り組みが始まっている。第2次トランプ政権が発足する直前の24年12月には、超党派の有志が「米国の繁栄と安全のための造船と港湾インフラ法案」(SHIPS法案)を上下両院に提出した。

 柱の1つが、造船所への投資に税額控除を設け、米国産の船舶建造を支援するとの内容だ。法案作成に関わったハドソン研究所上席研究員のマイケル・ロバーツ氏(69)は、「米国での船舶建造は中国と比べて費用がかかる。安全保障の問題もあり、米国は行動を起こす必要がある」と政府の関与を求めた。

 造船業復活を目指すトランプ政権の方針に目立った反論は聞こえてこない。だが、造船業に巨額の補助金を投じることには反対論も根強く、復活に向けた具体的な政策の道筋が見えているわけではない。

 キャンベル大のサルバトール・メルコリアーノ教授(歴史学)は「米国は太平洋と大西洋に囲まれていながら、時々それを忘れ、内向きになってしまう」と指摘し、「造船業は一夜にして復活するものではない。米国の実行力と忍耐力が問われている」と語った。

「同盟強化」の名目で
日本に技術供与を迫る?

 米国は、造船能力の高い韓国や日本など同盟国との連携に活路を見いだそうとしている。

 米海軍のフェラン長官は25年4月に日韓を歴訪し、造船所を視察した。6月の上院公聴会では、「(日韓には)米国よりはるかに先進的なものがあった」と述べ、先端技術などでの協力に意欲を示した。

『強権国家アメリカ「トランプ革命」の衝撃』書影強権国家アメリカ「トランプ革命」の衝撃』(読売新聞アメリカ総局、中央公論新社)

 日韓両国との協力は着実に進んでいる。先行するのは韓国で、24年12月、米ペンシルベニア州フィラデルフィアの造船所が韓国のハンファグループに買収された。ハンファは声明で「先進技術を駆使して生産を拡大し、米国の造船所の活性化を支援する」と表明した。

 トランプ大統領は25年10月のアジア歴訪で韓国を訪れた際、李在明大統領と会談し、韓国から造船分野への1500億ドルの投資の約束を取り付けた。韓国から要請を受けた原子力潜水艦の建造を承認し、その代わりにフィラデルフィアの造船所で建造されるとの見通しを一方的に示した。

 会談に先立つ演説では「この造船所は世界で最も成功した造船所の1つになる」と述べ、米韓の連携で造船業復活を図る算段だ。

 日本への期待も大きい。第1次トランプ政権で駐日大使を務めた共和党のウィリアム・ハガティ上院議員は5月のインタビューで、「造船は日本のノウハウと技術を同盟強化に活用できる分野だ」と語った。