例えばニューヨークの高級レストランは、フランス人かフランス訛りの英語を話すアメリカ人を置かないと成功しないといわれています。実際に行ってみると、日本でも知られているような高級レストランのスタッフはフランス人ばかりです。

 ニューヨーク攻略のためにもパリが重要だと判断し、ニューヨークとパリの両方を主要ターゲットにして輸出戦略を練ってきました。

 パリに直営店を出して、きちんと品質管理された獺祭の味を知ってもらうことで、ヨーロッパにおける日本酒の品質標準を造ろうという目的です。

 紹介された場所は凱旋門からすぐ、目抜き通りシャンゼリゼにあるカルティエの角を曲がって3件目という一等地。こんないい場所は望んでも出てこないと思いました。

 バブルの時代はいくつもの日本の大企業がシャンゼリゼに営業所を構えていましたが、ほとんどが撤退して残っているのはトヨタだけ。そういう意味では、もう一度、日本企業がパリで存在感を示す先駆けになれればという思いもありました。

順調に見えた
パリ直営店のスタート

 2013年9月に子会社「Dassai France(ダッサイ・フランス)」をパリに設立し、旭酒造(編集部注/日本酒メーカー「獺祭」の旧社名)の副社長、桜井一宏(編集部注/筆者の息子)が社長に就任しました。入社時は英語を話せなかった一宏ですが、実践で語学を習得し海外部門の責任者を務めていました。

 店名は「Dassai Bar23 Paris」。一企業の短期的な出店ではなく、日本酒の、日本の、将来を考える上で、やるべきことだと思って、覚悟を決めての出店計画でした。

 物件は16年間日本人シェフが経営してきたフランス料理店の権利を引き継ぐものでした。フランスには、物件を引き継いだら、本人が嫌がらない限り前の店のスタッフもそれまでと同待遇で雇わないといけない、という法律があります。そのため皿洗い1人、マネージャー1人を本人の希望によって雇用しました。当然オープンまでの賃金も支払うし、マネージャーは日本に呼んで販売研修も行いました。

「Dassai Bar23 Paris」は、隈研吾氏の設計で、宮大工の手による数寄屋造りという凝った店で、準備を始めました。