「契約は結んでいない」
5年かけた構想が水の泡

 ところが、その席上でオーナーから言われたのが、「この物件全体の再開発が決まった。お金は払うから出て行ってくれ」ということでした。

 そんな無茶な話はない、と返すと、「あなたがたは営業権は買ったけれど、その形態で商売をするという契約は結んでいない。前の飲食店との間で勝手に決めたことで、私たちが認めるものではない」と言うわけです。

 屁理屈ですが、実際に契約書を交わしていないので、それを言われたら痛い部分でもあるわけです。

 たしかに再開発の話があったのは知っていました。ただ、店の隣りにあった大きなクラブが立ち退く気がないということで、商業権を買ったのです。

 ところが我々が契約を進めていることを聞きつけたクラブ側が、突然方針を変えて、営業権を売ってもいいと言い出したのです。再開発のチャンスを逃したくないということでしょう。

 そしてすべてが引っくり返ってしまいました。「Dassai Bar23 Paris」の計画が頓挫し、商業権分の費用は返ってきましたが、ほぼ完成が目の前だった工事費用などは返ってきませんでした。

 結局5年間、力を注いだパリ店の構想は水の泡と消えました。

ロブションから届いた知らせ
「共同で店をやらないか」

 でも、どうしても私はフランスに拠点を持ちたかった。なんとか店を出せないかと心のうちではあきらめきれなかったのです。そんな時に、店の発表会で協力してくれたジョエル・ロブションから「店の話がなくなったと聞いたけど、私も獺祭の店に興味があるんだが」と連絡がありました。

 彼との出会いは、モナコの「ホテル メトロポール モンテカルロ」でした。たまたまラウンジにいた時に、「ロブションが来てるから、獺祭を飲んでもらったらいいんじゃないですか」と、ホテルのマネージャーにうながされて挨拶しました。その時はそれだけだったのですが、年に1回くらいは出会うことがあって、ロブションが獺祭のことを認知してくれるようになりました。