逆に、十数時間に及ぶ長距離路線で、到着した直後に重要な交渉や式典が控えているのなら、迷わずファーストクラスを選びます。ただし、それは「人に見られるから」ではなく、あくまで「しっかり眠り、万全の状態をつくるため」です。同じファーストクラスという座席でも、それを選ぶ理由が全く違うのです。
ここで、料金の話にも触れておきたいと思います。例えば新幹線の場合、最上級のグリーン車は、普通車にくらべて3割ほど高いだけです。ところが飛行機では、ビジネスクラスとファーストクラスの差は、路線や時期にもよりますが、正規運賃でおよそ2倍から3倍にもなります。
欧米路線では、ファーストクラスの往復料金が200万円を超えることも珍しくありません。同じ「ワンランク上」でも、価格の跳ね上がり方の桁が、全く違うのです。
では、その価格差に見合うだけの快適さの違いがあるのかというと、必ずしもそうとは言えません。長距離フライトを心地よく過ごすという基本的な価値は、フルフラットの座席も上質な食事も含めて、すでにビジネスクラスで十分に満たされています。ファーストクラスが加えてくれるのは、その一つ一つをさらに磨き上げた「洗練」です。
快適さの違いがこうして少しずつ積み上がる「足し算」であるのに対し、価格の違いは2倍、3倍という「掛け算」で膨らんでいきます。
本物の富裕層は、この不均衡を冷静に見ています。だからこそ、その差額が必要だと判断できない場面では、ためらいなくビジネスクラスを選ぶのです。
本物の富裕層が
専用ラウンジに求めるもの
興味深いことに、本物の富裕層ほど、空港での過ごし方も淡々としています。
専用ラウンジの豪華さを誇るのでもなく、必要な休息と仕事を静かに済ませ、時間になれば搭乗されます。設備の格ではなく、その時間で自分が何をできたかだけを見ておられるのです。
心理学者アブラハム・マズローは、人間の欲求には段階があると説きました。他者からの評価や尊敬を求める「承認欲求」の段階を超えると、人は「自己実現欲求」――自分にとって本当に必要なものを基準に生きる段階へと進んでいきます。







