公的年金の物価スライドは
高齢者の生活費上昇を反映すると限らず

 日本の公的年金には、物価スライドがある。従って物価が上昇しても、年金の実質額は減らないような気がする。しかし、実際には必ずしもそうではないのだ。

 これを見るため、日本の年金における物価スライドがどのように行われるかを確認しておこう。

 まず、物価の伸び率が賃金の伸び率を下回る場合には、物価の伸び率が年金のスライドに用いられる。それに対して、賃金の伸び率が物価の伸び率を下回る場合には、現役世代の負担能力を考慮して、より低い率である賃金の伸び率(名目手取り賃金変動率)が用いられる。

 また、以上のほかに「マクロ経済スライド」による調整がある。これは、少子高齢化に対応するため、04年に導入された制度だ。物価や賃金が上昇した場合、現役世代の人口減を年金の改定率に反映させ、一定の調整率を差し引く。

 これまでの日本では、4年間連続して実質賃金の伸び率(前年同月比)がマイナスだった。つまり賃金の伸び率が物価上昇率より低かった。従って、公的年金の物価スライドには、物価上昇率より伸び率が低い賃金伸び率が用いられたことになる。

 ところが、実質賃金の伸び率は、26年1月から3カ月連続のプラスになっている。5月8日に公表された3月の毎月勤労統計調査(速報値)によると、1人当たりの実質賃金は、前年同月比で1.0%増となった(対象は従業員5人以上の事業所)。

 3カ月以上プラスが続くのは、21年2月から8月までの7カ月連続以来のことだ。

 今後もこの状態が続くとしよう。つまり、賃金の伸び率が物価上昇率より高い状態が続くとしよう。その場合には、インフレスライドには、物価上昇率が用いられることになる(ただし、これに加えてマクロ経済スライドも行われるので、年金額が物価上昇率と同率で増加するとは限らない)。

 問題は、平均的な消費者物価指数は、高齢者が実際に直面する生活費の上昇をそのまま反映するとは限らないことだ。

自動車をあまり使わない高齢者は
恩恵受けず、年金の実質額は減少

 この点は重要だ。現在の消費者物価上昇率は、ガソリン価格の補助などによって押し下げられている。ところが、自動車をあまり使わない高齢者は、その恩恵を十分に受けない一方で、食料品や光熱費など、日常生活に欠かせない支出の上昇には直面している。

 従って、公式の物価上昇率に合わせて年金が改定されたとしても、全ての高齢者にとって実質的な生活水準が維持されるとは限らない。特にガソリン消費が少なく、食料品や光熱費の負担が大きい高齢者世帯では、年金の改定が実際の生活費上昇に追い付かない可能性がある。

 もちろん、全ての高齢者がガソリン補助の恩恵を受けないわけではない。地方在住で車が生活必需品となっている高齢者にとっては、ガソリン価格の低下は大きな助けになる。

 つまり、「高齢者全体が一律に損をする」ということではなく、生活様式や居住地域によって、物価対策の恩恵に大きな偏りが生じるのだ。