低所得者や将来世代も「損をする」
補助の負担は将来の納税者に

 年金受給者以外にも、政府の物価対策によって「損をする人」がいる。

 第1は賃金や手当が物価指数を参考に改定される人だ。例えば、最低賃金、生活保護基準、各種手当、企業の賃上げ交渉などでは、物価上昇率が一つの参考になる。

 だから、政府補助によって消費者物価指数の伸び率が低く抑えられると、賃金・手当・給付の引き上げ幅が抑えられる可能性がある。これは年金受給者と同じ構造だ。

 第2は低所得世帯だ。この場合、支出に占める食料、光熱費、家賃など生活必需品の割合が高くなりがちだ。補助がガソリン中心であれば、車を使わない低所得世帯には恩恵が小さい一方で、食料品などの値上がりは重くのしかかる。

 総務省の家計構造調査でも、無職高齢世帯などでは食料や光熱・水道の支出割合が高いことが示されている。

 第3は将来世代だ。ガソリン補助や、政府が7~9月期から再開する電気・ガス補助は、財政の負担になる。26年度補正予算案の歳入は赤字国債で賄うため、負担は将来の納税者にも回る。

 従って、現在あまり補助の恩恵を受けていない若い世代は、「いま得をしないのに、将来の財政負担は負う」という形で不利になる。

物価を操作することの危険性
全ての人に同じ利益にはならず

 政府の物価対策は、ガソリンを多く使う世帯には恩恵がある。しかし、その政策によって消費者物価全体が押し下げられると、年金、賃金、手当、給付などの改定率も低くなりやすい。従って、ガソリン価格補助の恩恵をあまり受けない都市部の非自動車保有世帯、低所得世帯、将来世代などは、結果として不利になる可能性が高い。

 この問題の本質は、次のことだ。

 物価は、最も基本的な経済指標の一つだ。公的年金額などさまざまな経済量が、それにリンクして決まる。従って、政府によって物価指数が操作されると、多くの人たちの生活が影響を受ける。

 一方、国民生活を楽にするという名目でなされる物価対策は、全ての人々に同じような利益を与えるわけではない。このため全体として見れば、あるグループの生活が苦しくなるという事態が、十分にあり得るのだ。

(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)