冨山は、『イノベーションのジレンマ』が出版される数年前には、産業界でのゲームチェンジの流れを皮膚感覚として感じていた。帰国した翌年には、米副大統領、アル・ゴアの高らかな宣言、インターネットによって全米を結びつけるという「情報スーパーハイウェイ構想」を知るや、その感はいっそう強まるばかりだった。

 日本型のゲームの終わりを告げる不良債権の山は、冨山には産業構造の変革が求められていることの証明に見えた。しかし、産業界から聞こえてくる声は、戦後の高度成長を支えた製造業に絶対的な信を置く、相変わらずの“製造業神話”を説くものばかりだった。その成功体験にしがみつく日本の製造業は、コダックと同じ道を歩むのではないかという不安が頭から離れなかった。

“ソニー神話” が生きる時代に
出井はデジタルの未来を見抜いた

 そんな中、冨山の耳に飛びこんできたのが、「デジタル・ドリーム・キッズ」というキャッチフレーズだった。斬新な響きだった。新時代を感じさせる響きがあった。

 唱えていたのは、出井伸之というソニーの新しい社長に就任した人物だった。「デジタルの時代がやってきている」「デジタルの時代に生き残るソニーになる」「ネットワークで儲ける会社になる」と、高らかに宣言する出井に、冨山は驚き、感嘆し、そして勇気づけられたという。自分と同じ目線で時代を見ている経営者が日本にもいると。しかも、それは世界にその名を轟かせているソニーの社長ではないかと。

 冨山は、出井が社長に就任する前に、会社の上層部に提出したレポートも読んだ。

 そこには「インターネットに乗り遅れればソニーは、隕石で滅んだ恐竜と同じ運命をたどる」とあった。自分とまったく同じことを感じていた経営者がいた。

「もう驚きしかなかった」

 冨山は感嘆しながら、言葉を続けた。

「その当時は、本当にインターネットがどんなものなのか、特に日本ではチンプンカンプンだった時代ですよ。そんな時代に、30年先に起こるであろうことをほぼ正確に言い当てているわけですよ」