職人に求められるのは、単に手で握る技術ではなく、魚の特性を見抜く目、旬や産地の背景を語る知識、そして顧客に体験として寿司を届ける力です。以前、豊洲市場の大和寿司の大将にお話を伺った際、「寿司職人で最も大事なのはお客様を気持ち良くさせることだ。技術はそのための武器の1つにすぎない」という言葉が大変印象的でした。

 現代における寿司職人は単なる「握る人」ではなく、「楽しませる人」へと変化しています。

書影『最強の寿司ビジネス』(ながさき一生、中央公論新社)『最強の寿司ビジネス』(ながさき一生、中央公論新社)

 一方で、ロボットには規格化・安定化という役割があります。人間が一貫一貫の美しさや物語性を追求する一方で、ロボットは品質の均一化、大量提供、衛生管理の自動化といった面で力を発揮します。

 例えば、シャリの温度や重量を常に一定に保ち、効率的に成形できる機械が寿司店にあるとしましょう。すると寿司店は、ネタの管理や顧客体験の充実に、より多くのリソースを割けるようになります。つまり、ロボットの導入は職人を排除するのではなく、「本来の仕事に集中できる環境を整える」ための手段と考えることもできるのです。

 将来的には、職人とロボットの関係はますます密接になるでしょう。シャリやネタのデータをAIが学習し、客の嗜好やその日の温度・湿度に合わせて最適な握りを提案する。職人はその情報を基に最終調整を行う。そんな時代もやってくるかもしれません。

 結局のところ、寿司の未来は「誰が握るか」ではなく、「どんな体験を届けるか」にかかっています。職人とロボットは、対立する存在ではなく、寿司という文化を世界に広げるためのパートナーとも捉えられます。人の感性とテクノロジーの融合。それこそが、次世代の寿司ビジネスを支える“新しいつくり手”の姿なのです。