しかし日本人は、相対的にそういうマインドを持った人が少ない。であれば、エゴイストの出現を待つのではなく、特殊なストライカー一人に依存するのではなく、いい状態でボールを受けるためにどう動くべきかをチーム全体で考えたほうがいいかもしれません。味方が良い状態でボールを受けるためには、よりゴールに近づくために、自分はどう貢献できるか? 日本人に自然に備わっている利他の精神が、ピッチでも活かされるのです。

「情けは人の為ならず」という言葉があります。誤解されがちな言い回しですが、本来の意味は「人に情けをかけるのはその人のためではなく、巡り巡って自分のためになる」というものです。列に並ぶこと、ゴミを持ち帰ること、電車を降りる人を先に通すこと。訪日した外国人が驚く日本の公共マナーの高さは、「自分が」よりも「全体が」を優先する発想から来ています。ピッチの上でも、同じはずです。

 先例もあります。2011年、東日本大震災の年に、なでしこジャパンがワールドカップで世界の頂点に立ちました。「誰かのために戦う」という大義を背負ったチームが、格上を次々と倒していったあの大会を、多くの人が覚えていると思います。誰かのために力を出すことは、日本人にとって最大のエネルギー源になり得る。男子の舞台とは競技環境が異なるとはいえ、利他的な力が爆発したときの日本人の底力は、あの大会で世界に示されました。

 利他の精神とは、自己犠牲のことではありません。互いを信頼し、互いの力を前提に動くことで、全体として個を超えた力が発揮される。その質のサッカーを日本の文化的資質で意図的に設計できたら、それは世界のどの国も見たことのないスタイルになります。