経済学は、市場での取引を通じて資源配分が行われると考える。人々が欲しいと思うものは価格が上昇し、それに応じて供給も増える。こうして社会的ニーズの高い分野に資源が配分されていくと考えるのである。しかし、市場以外の手段で資源配分を変えることもできる。それが「ヴォイス(voice=声を上げる)」と「エグジット(exit=退出する)」だ。

 たとえば、近所のレストランの食事が美味しくないとしよう。近所の住民がこのレストランの味を改善させるためには二つのやり方がある。一つは、店主に「お前の店の料理は不味い」と文句を言うことであり、これが「ヴォイス」だ。もう一つは、その店に行くのを止めることであり、これが「エグジット」である。

 地域間の人口移動はこの「エグジット」に相当すると考えられる。人々はより良い教育機会、就業機会、生活の質を求めて地域間を移動する。すると、転入者が多い地域は、その地域の魅力が大きいから人が集まり、転出者が多い地域は、教育機会、就業機会などが乏しいから人が出ていくのだと考えられる。

 これは人々が移動を通じて人気投票をしているようなものなので「足による投票」と呼ばれている。

ウェルビーイングを高めるには
人々の移動を制限してはならない

 経済学には「顕示選好(revealed preference)」という考え方もある。人々の選好はわざわざ測定しなくても、人々の行動に現れるという考え方である。

 これは地域ごとの幸福度の議論に応用できる。それはこういうことだ。しばしば、地域別の住みやすさ、魅力度、住民の幸福度などを測定しようとする試みがある。関係しそうな指標を合成したり、アンケート調査で住民の意識を聞いたりするのである。しかし、顕示選好の考え方に基づくと、そんなことをしなくても、人々が集まってくる地域が魅力的で幸せな地域だとも言える。わざわざ人が来るのは、その地域に行ったほうが幸せになれると思ったはずだからである。

 さて、このような考え方を地域間人口移動に適用してみると、次のようなことが言えそうだ。