しかし、スマート・シュリンクを旗印に掲げ、これを実践している地域もある。その代表が岡山県美咲町だ。地域戦略人材塾に同町の青野高陽町長をお招きしたことがある。

 青野町長が就任した2018年当初は、町は県内でもワーストの人口減少率で、総合計画も期限を過ぎているという状態だった。その町政を再建していく過程で生まれてきたのが「賢く収縮するまちづくり(スマート・シュリンク)」という基本方針である。

 そのきっかけになったのは、公共施設の見直しだった。町長就任時は、3町合併の後だったこともあり、町民1人当たりの公共施設の床面積が全国平均の2倍以上もあった。これを人口規模に見合うよう集約・縮小していくことがスマート・シュリンクの出発点となった。

 そこで、2年かけて全施設のカルテをつくり、1人当たりの利用コスト、耐用年数などから優先順位をつけ、学校関連、プール、温泉施設、公民館など約60の施設について解体や売却を進めている。

 もちろん縮小だけでは住民のウェルビーイングは低下するばかりなので、新たな施設もつくる。しかし、新しくつくる際には複数の施設を1か所に一体的に整備し、建設資材も簡素なものにするといった工夫をしている。たとえば、公共施設を統合して設けた多世代交流拠点には、公民館、図書館、保健センター、社会福祉協議会が一体的に整備されている。

学校のダウンサイジングで
教育の質を維持することに成功

 こうした公共施設の見直しの他にも、工夫を講じている。その一つが、小規模多機能自治の推進である。

 これは、住民自身が地域の課題を洗い出して解決策を実行する仕組みである。高齢化率が高まる中、個人や自治会単独では課題への対処が難しくなったことから、81の自治会を小学校区や旧行政区など13のグループに分けて、より大きな単位で補完し支え合う狙いである。中学生以上の全員にアンケート調査をして地域の課題を調べ、優先順位を付けた上で、道路・河川の美化、高齢者の見守り等の活動を行っている。

 さらに、過疎化が深刻な2地域では、義務教育を一体化した義務教育学校を設けた。小中学校を一つにすることで、児童・生徒数を確保し、学校を地域に残せるようにしたのである。過疎地における教育施設のモデルとして、海外からも含めて多くの視察者が訪れるという。

 この美咲町の例は、スマート・シュリンクを掲げた地域政策の推進は、地域の人々にも受け入れられるものだということ、それを進めるためには、公共施設の整備、教育体制、住民自治の仕組みなどについて、各分野における工夫の積み重ねが求められること、そして、人口減によって厳しい状況に置かれている地域においても、住民のウェルビーイング向上は可能であることを示しているように思われる。