彼らがやったことはこのようなことでした。アメリカ経済でインフレが起きたことで度重なる値上げを断行し、同時にデジタルトランスフォーメーションで生産性を上げようとしました。経営学の教科書に書いてありそうな手を頭のいい経営者がうった形です。
結果として起きたことは業績改善とは真逆でした。過度な値上げは結果的に顧客離れを生みました。モバイルオーダー偏重の店舗オペレーションは、結果としてバリスタと顧客のコミュニケーションを無くし、スタバでコーヒーを注文するという体験価値自体を失ってしまいました。
それで現在の経営陣はスタバ体験を再生することに力を入れようとしています。
アメリカの苦境とは別に、これは偶発的に事件を引き起こしてしまったのですが、韓国でもスタバは苦境にあります。光州事件を揶揄(やゆ)するかのような販促を行った結果、国民的なボイコットを引き起こしてしまったのです。
それで韓国のスタバでは、全従業員を対象とした歴史研修を実施することになったのです。
結局のところスターバックスが世界全体で取り組まなければいけないことは、スタバでの体験価値を日本の水準に戻すことです。それは広告宣伝や商品開発でできることではありません。従業員に投資をすることで体験価値を元に戻すしかないのです。
そこで日本事業を売却する必要が出てきます。というのも、このように人材に投資をする形での再建計画にはお金がかかるのです。実は日本事業を売却する前に、すでに今年の4月にスターバックスは中国事業の60%を約6000億円で売却しています。
日本事業も売却にあたってはファンドや国内の飲食大手に事業譲渡するのか、それともIPOの形で部分的に経営権を残すのか、方法論はいくつかありますが、あくまで目的は数千億円のキャッシュを手に入れることです。
つまりアメリカ本社は業績のよい中国と日本を売却して1兆円規模の資金を手にして、それを元手にそれ以外の世界全体を建て直す計画をたてたということです。
繰り返しになりますが、このような計画はアメリカ人経営者の視点でみれば教科書に書かれているような定石通りの事業戦略です。専門家から見れば「これが正解です。以上。話はおしまいです!」となるところです。
しかし、私はあえて異論をはさみたいと思います。
「なぜアメリカ事業を売却して、日本と中国でスタバを繁栄させる戦略をとらないのだろうか?」と思うのです。
東芝・ダイエーの事例で考える
「大化け事業」を売却する是非
過去に、スタバのアメリカ法人のように教科書通りの経営判断をした大企業はいくつもあります。さらし者にするようで恐縮ですが並べてみましょう。
東芝は経営危機に陥った際に、半導体部門を売却しました。その半導体部門はキオクシアという名前の会社です。東芝は2023年にファンドに2兆円で売却され再建中です。売却したキオクシアは上場して時価総額52兆円とトヨタを抜いて日本一になりました。







