ダイエーは経営危機に陥りコンビニ事業を売却しました。その売却資金で総合スーパーマーケット事業を立てなおす計画でしたがうまくいかず、再生機構の傘下で再建をすすめイオンに売却されました。ダイエーが売却したローソンは三菱商事とKDDIの子会社として現在も成長中です。

 アメリカの自動車大手のフォードは、本業が苦しくなる中で稼ぎ頭でもあるハーツレンタカーを売却しました。ハーツは全米でナンバーワンのレンタカー会社です。アメリカ市場では車を製造販売するよりも、サービス業であるレンタカーのほうがビジネスとしては高収益です。

 これらの事例は共通点として、事業再建をするために価値のある事業を売却した事例です。教科書通りのやり方ですが、その反対の教科書に書かれていない方法をとったらどうなっていたでしょう?

 つまり東芝が祖業である重電部門を売却し半導体に集中する選択肢をとっていたら、今や日本最大の企業になっていたわけです。ダイエーもスーパーマーケット部門を売却してコンビニに集中すれば、セブンアンドアイやイオンと肩を並べる流通の王者であり続けたでしょう。フォードは自動車製造から撤退する一方で、世界中でカーシェア業界をリードする企業になれていたかもしれません。

 ではなぜその選択肢が教科書に書かれていないのかというと、本業や祖業は企業文化として売却できないのです。

 東芝やダイエーの例を出すから「そういうやり方もあるよな」と思うだけで、現在進行形の経営課題でこれを考えると難しいことがわかります。これも特定の企業を揶揄するつもりはありませんが頭の体操として考えてみましょう。

 たとえば東急グループが東急ハンズを売却せずに、逆に鉄道事業をJR東日本に売却することは戦略として考えられたでしょうか?

 これは論理的にはアリかもしれません。渋谷の再開発を中心に不動産事業をグループの中核事業として、成長の源泉となる価値を「渋谷の文化」に置くという考えです。

 未来のモビリティ社会においては鉄道路線は発展の余地が大きくありません。しかし都市開発には無限の未来がありうる。そう考えた偉大な経営者が仮にいたとしても、さすがに東急グループが鉄道部門を売却するのはクレイジーではないでしょうか。

 もうひとつ別の例を考えてみましょう。メガバンクが個人を対象にしたリテールの銀行ビジネスを売却するという戦略はないのでしょうか?

 個人向けの預金や住宅ローンといった事業をまとめてネット銀行に事業売却して、今後は法人事業とグローバル事業にフォーカスする戦略は論理的にはありえます。

 メガバンクはそうは口に出すことはありませんが、リテールとよばれる個人向けの銀行サービスは収益性も成長性もそれほど期待できるものではありません。にもかかわらず店舗には年金の口座を持つたくさんの高齢者がおしよせます。

 こういったリテール部門を楽天銀行や住信SBIネット銀行に売却してしまって、自らはグローバルな法人金融市場で、ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーと肩を並べて競争する。そのような未来のほうが成長性は高くないのでしょうか?

 この例も頭の体操としてはアリですが、実際にドラマの『半沢直樹』のような空気のある行内で経営議題として取り上げることを考えると、まず無理ではないでしょうか?

 経営者というのは結局のところ人間ですから、実現する可能性がある打ち手の中から最善手を選びます。その結果が、東芝ならキオクシアの売却であり、スタバの場合は日本事業の売却です。

 ということで、頭の体操をしたうえで一周回って考えると、スタバのアメリカ事業はとてもじゃないですけど売れません。成長性のある日本事業を売却するのが、スターバックスの経営者からみるとやはり正解だということなのです。

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