「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく

リストラのニュースが絶えないGAFAM、実は従業員数が減っていない本当の理由Photo: Koshiro K/Adobe Stock

GAFAMは本当に人を減らしているのか?

――GAFAMのリストラのニュースをよく耳にします。数万人規模の削減が相次いでいるようですが、実際のところ何が起きているのでしょうか?

 実は、GAFAMの総従業員数はほとんど減っていません。リストラのニュースは大きく報じられがちですが、数字を追うとまったく異なる事実が見えてきます。

 たとえばGoogleの親会社Alphabetは、2023年に約12,000人のリストラを発表し、Metaも2022~2023年に約19,000人を削減しました。

 しかし、両社とも2025年末時点の従業員数はリストラ前に近い水準まで戻っています。Microsoftも複数回の削減を発表しましたが、2025年度終了時の従業員数は前年と同じ水準でした。

 つまり起きているのは単純な人員削減ではありません。「削減」と「採用」が同時進行しているのです。ある部門で数千人を削減しながら、別の部門では数千人を採用している。

 ニュースになるのは主に「削減」の方です。そのため、GAFAM全体が人を減らしているように見えているのです。

GAFAMは「誰を減らし、誰を増やしている」のか?

――削減と採用が同時進行しているとすれば、「誰を削って、誰を採っているのか」が重要ですね。

 まさにそこが本質です。削減されているのは、主に管理部門やマーケティング、カスタマーサポートなどの人材、そして汎用的なソフトウェアエンジニアです。

 一方で採用が増えているのは、AI・機械学習エンジニア、データサイエンティスト、クラウドインフラやサイバーセキュリティ人材です。

 象徴的だったのが、2025年4月に開催されたLlamaCon(Meta主催)での発言です。Microsoft CEO Nadella氏は「Microsoftの新規コードの20~30%はすでにAIが書いている」と語り、その直後、Microsoftは約6,000人の削減を実施したと報じられています。削減された大半がプログラマーだったとも指摘されています。

 これは偶然ではありません。AIで代替可能な仕事を担っていた人材が、最初に削られ始めているのです。
同様に、GoogleのCEO Pichai氏も「Googleのコードの30%以上がAIによって生成されている」(2025年時点)と述べ、さらにはMetaのZuckerberg氏は「1年以内にコーディングの半分がAIになる」と予測しています。

――AIがコードを書くなら、エンジニアはもう必要ないのでしょうか?

 むしろ逆です。AIがコードを書くからこそ、それを設計し、管理し、改善する人材の重要性が高まっています。ここに、GAFAMがインドへの投資を加速している理由があります。

 2025年、Meta、Amazon、Apple、Microsoft、Netflix、Googleの6社は、インドで合計32,000人以上を新規採用しました。採用の中心はAI・MLオペレーション、データエンジニアリング、クラウドインフラ、サイバーセキュリティ人材です。

なぜGAFAMはインドで採用を増やしているのか?

――なぜインドなのでしょうか。

 理由は明快です。インドには約330万人のソフトウェアエンジニアがおり、そのうち約45万人がAI・機械学習領域の人材です。英語で業務ができ、グローバル企業の仕事に対応できる人材も豊富です。米国でAI人材を採用するより、インドで採用する方が量・質・コストの三拍子が揃っています。

 GAFAMは米国でAIに代替される役割を減らしながら、インドでAIを使いこなす人材を増やしているのです。そしてこれこそが、「リストラしているのに従業員数が減らない」大きな理由の一つです。

――これは人材戦略そのものの転換と考えるべきでしょうか?

 そう考えています。この変化は、大きく3つのフェーズに分けて捉えるとわかりやすいです。

 第1フェーズは2023~2024年です。この時期のリストラは、コロナ禍で急増したデジタル需要を見込んで進めた大量採用の反動という側面が強くありました。多くの企業は「AI化による効率化」を理由に挙げていましたが、実態としてはコロナ期の過剰採用の修正だったと見るべきでしょう。

 第2フェーズは2025年です。Nadella氏やPichai氏の発言に象徴されるように、AIがコードを書くという現実が公言され始め、汎用エンジニアの削減が本格化しました。ただしこの時期はまだ「役割の入れ替え」が中心で、総人数を減らすことが目的ではありません。

 そして現在進行しているのが第3フェーズです。企業自身が「AIによる代替」を公言するケースが急増し始めています。たとえば、CloudflareのCEOは「AIが1,100人分の仕事を不要にした」と明言しています。

 しかし興味深いのは、その一方で同社が過去最高売上を達成していることです。また、Amazon、Microsoft、Googleの3社だけでも、2025年10月以降に675億ドル規模のインド投資を発表しています。AI時代に必要な人材と能力への投資は、むしろ加速しているのです。

 見えているのは削減ですが、その裏ではまったく別のことが進んでいます。

いま必要なのは「人材ポートフォリオの組み替え」

――日本企業はこの構造をどう読むべきでしょうか?

 AIによって仕事が消えているだけではありません。AIを動かすための新たな仕事も生まれ続けています。
GAFAMが行っていることの本質は、「人員削減」ではなく「人材ポートフォリオの組み替え」です。AIに代替される役割を減らし、AIを活用・管理・開発できる役割へ投資する。その供給地として、インドの重要性が急速に高まっています。

 日本企業がこのニュースから学ぶべきことは二つあります。

 一つは、「リストラ=コスト削減」という見方を捨てることです。GAFAMは削減した以上に、未来の競争力を作る人材へ投資しています。

 もう一つは、インドGCC(Global Capability Center)の意味を理解することです。GAFAMがインドで採用している人材の多くは、GCCという内製拠点を通じて活用されています。彼らはインドを「安価な外注先」として見ているのではありません。「AI時代の競争力を生み出す能力の源泉」として位置づけているのです。

 リストラのニュースだけを見ると、GAFAMは人を減らしているように見えます。しかし実際には、未来に必要な人材へ、猛烈な勢いで資源を移しているのです。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。