移動時間や信号待ち、あるいは仕事の合間のわずかな隙間時間。私たちはなぜ、これほどまでにスマホをスクロールし続けてしまうのでしょうか。その裏側には、ギャンブルの仕組みをも応用した、ユーザーの脳に「0.3秒で快楽を届ける」システムの存在がある。利便性の高いサービスの裏にある、ユーザーの時間を最大化するための精緻な依存の作り方、その驚くべき手口とは?
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港くん:人気の動画SNS「fluid」を運営する会社の若き経営者。
人はスマホに依存「させられている」
東京の中心地、六本木。輝かしい高層ビルの上層階に、港くんの会社のオフィスは入っていました。
警備システムによる厳重なロックがかかった会議室。席にはカジュアルながらも洗練された雰囲気の人々が8名。全員の視線が注がれる中、港くんはゆっくりと話し始めました。
「ご存じの通り、当社のfluidは設立5年で国内最大のSNSへと成長しました。次は世界です。そのさらなる飛躍を実現するため、本日は各部門の責任者である皆さんにお集まりいただきました」
参加者の何名かが、小さく笑みを浮かべます。
「世間にはfluidの成功を『動画のSNSを作ったからヒットした』などと安易に考える人もいますが、それは全くの的外れです。今期から新たに加入された方もいらっしゃるので、ここで私たちのビジネスの核心について理解を揃えさせてください」
巨大なスクリーンに、スライド資料が投影されました。
――SNSビジネスの成長メカニズム――
ユーザーの時間を奪うほど、SNS会社は儲かる
釈迦に説法になってしまうかもしれませんが、まずは基本のおさらいです」
港くんはスライドを送ります。
――すべての収益の源は「ユーザーから奪った時間」――
「私たちを含め、ほとんどのSNS企業の収入源は広告です。たとえば先月、あるアパレルブランドが新作バッグを発表しました。そこでfluidはユーザーにそのバッグの広告を計2億回ほど表示し、その対価として1億円の広告費をいただきました」
そこで港くんは出席者に投げかけました。
「この収益と『ユーザーの時間』との関係を、どなたかご説明願えますか?」
ファイナンス部門の責任者の女性が「では」と、説明をはじめました。
「たとえばアパレル企業は、新作バッグの売上を増やすために広告を出します。千人に広告を表示すればそのうち3人ほど、1万人なら30人がそのバッグを買うでしょう。このように、より多くの人が広告を見れば、それだけそのアパレル企業の売上はアップします。
そのためより多くの広告を表示できるSNSに対し、企業はより多くの広告費を払います。そしてSNSはユーザーが長時間見るほど多くの広告を表示できるので、ユーザーを画面に釘づけにしてより多く『時間を奪う』ほど、SNS企業の収益は増えます」
説明が終わると、港くんは「さすがです」と小さく会釈しました。
「つまりSNSビジネスの成長は、『いかにユーザーの時間を奪うか』にかかっています。そこで私たちは、ユーザーを『依存』させます。そうすれば彼らは暇さえあればSNSを開き、自ら大量の広告に触れ、私たちの収益を増やしてくれるでしょう」
そこで港くんはペットボトルの水を一口飲むと、すこし声を低くして言いました。
「問題は、どうやってユーザーを依存させるかです」



