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なぜ書道や茶道の教室は、「段位・資格」制度を設けるのか?Photo: Adobe Stock

「級」や「段」があるだけで、
やめられなくなる理由

 書道教室に通い始め、しばらくすると先生から「そろそろ昇級試験を受けてみませんか」と声をかけられる。最初は「趣味だからそこまでしなくても」と思っていたのに、いつの間にか段位取得を目標に通い続けている。

 気づけば、昇段試験のための特別講習料や、段位認定の登録料を何度も支払っていた。そんな経験、あるいは周囲で見たことはありませんか?

 実はこの「段位・資格」制度は、伝統や権威の維持だけが目的ではありません。お客様が「もう少しで次のレベルに上がれる」という状態を永続させることで、長期的な通い続けと追加の支払いを自然に引き出す、精密に設計された販促の仕掛けなのです。

「ゴールが近づくほど、行動が加速する」
(目標勾配効果と達成欲求)

 人は、目標に近づくほどそれを達成しようとする行動エネルギーが高まります。これを「目標勾配効果」といいます。スタンプカードのスタンプが残り一つになったとき、コーヒーを買う頻度が上がるのと同じ心理です。

 段位・級位制度は、この「あと少しで達成できる」という状態を、何年にもわたって連続して作り続けるしくみです。初段を取ったら二段、二段を取ったら三段とゴールが更新され続けるため、「もう通わなくていい」という心理的な完了感が生まれにくくなります。

 しかも、昇段試験が近づくほど練習量が増え、特別講習への参加意欲も高まります。「ここで頑張らないともったいない」というサンクコスト(これまで積み重ねてきた練習と費用)への執着も相まって、試験前後の追加支払いが自然に発生するのです。

「肩書き」が自己イメージを作り、
やめることを難しくする(自己一致性の原理)

 もう一つの理由は、段位や資格が「自分はこういう人間だ」という自己イメージに組み込まれるという点です。

「書道三段」「茶道裏千家◯◯」という肩書きは、技術の証明であると同時に、その人のアイデンティティの一部になります。人は、自分の自己イメージと矛盾する行動を避けようとする「自己一致性の原理」に従って動きます。

「書道三段の自分」というイメージを持った人は、書道をやめることが自己イメージの喪失を意味するため、やめる心理的コストが非常に高くなるのです。

 さらに、段位を持つことで「上の段位を持つ仲間のコミュニティ」への帰属意識も生まれます。そのコミュニティから離れることへの抵抗感(所属欲求)が、長期にわたる通い続けを支える見えない力になるのです。

他のお店でも使える「段階的な達成設計」

 ・フィットネスジム
 月間トレーニング回数や累計消費カロリーに応じて「ブロンズ・シルバー・ゴールド会員」などの段階を設ける。上位ステータスへの到達を目標に、退会のタイミングを先延ばしする動機が生まれる。

 ・料理教室
「家庭料理コース→プロフェッショナルコース→インストラクター養成コース」という段階的なカリキュラムを設計する。各コースの修了が次のコースへの自然な誘導になり、一人あたりの受講総額が大幅に上がる。

 ・英会話スクール
 独自の習熟度テストと級位制度を設け、定期的に受験を促す。外部の英語検定と連動させることで「この教室で学び続けることが資格への近道」という文脈を作り、退会率を下げる。

まとめ

 書道や茶道の教室が段位・資格制度を設けるのは、伝統の継承だけが理由ではありません。

 ・「目標勾配効果」により、常に「あと少しで次のレベル」という状態を作り続け、長期にわたる通い続けと追加支払いを引き出し
 ・「サンクコスト効果」により、積み重ねた練習と費用への執着が試験前後の行動を加速させ
 ・「自己一致性の原理」により、段位がアイデンティティの一部となり、やめることの心理的コストを高める

 という、お客様が「もう少しだけ続けよう」と感じ続けるための、長期的な関係設計の仕掛けなのです。

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。