幸せに生きるためには、何が必要なのだろうか。人間関係や仕事、生きがいなどさまざまな答えがあるが、近年は意外なものにも注目が集まっている。医師で老年医学・栄養科学の専門家であるガブリエル・ライオンの知見から、幸福感を高める意外な習慣について紹介する。(ダイヤモンド社書籍編集局・三浦岳)
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体の中から幸福になる
「毎日をもっと幸せに生きたい」「ネガティブな気分から抜け出したい」。そんなふうに考えたとき、私たちは旅行に行ったり、趣味に没頭したり、人間関係を改善したりして、心の状態を外側から変えようとしがちだ。
しかしどんなに環境を整えても、自分自身の身体のメカニズムを理解していなければ、本当の意味での幸福感を持続させることは難しい。
医師で老年医学・栄養科学の専門家であるガブリエル・ライオン著『筋肉が全て』によれば、筋肉は単に体を動かすための器官ではなく、健康や活力、さらには精神状態にも深く関わっているという。
その内容を踏まえると、幸福度が高い人の特徴として浮かび上がるのは、「日常的に筋肉を動かし、鍛えていること」だ。
「筋肉と幸福感に何の関係があるのか」と疑問に思うかもしれない。筋肉といえば、単に身体を動かすためのパーツであり、せいぜい基礎代謝を上げて太りにくくするためのものだと思われがちだ。
しかし近年、筋肉は単に身体を動かすための組織ではなく、全身にさまざまな物質を分泌し、健康やメンタルにも大きな影響を与えることがわかってきた。ガブリエル・ライオンは、筋肉を「最大の内分泌器官」と位置づけ、次のように述べている。
これは、甲状腺が体重やエネルギーレベル、内部体温を調節するホルモンを放出するのに似ている。全身をめぐるホルモン様タンパク質を放出するこの機能によって、骨格筋は内分泌器官に等しい役割を果たすと言える。
つまり、骨格筋が全身の細胞に影響を与える物質を血液中に放出し、さまざまな身体機能を調節しているということだ。
マイオカインは全身の組織で代謝を調節するのに役立つだけでなく、組織ごとに異なる抗炎症効果を発揮して、免疫機能や代謝を向上させる。
筋肉が内分泌器官と同じ働きをしている、というのは初耳の人が多いかもしれない。これは比較的新しい知見で、専門家でもよく理解していない人がいるぐらいだ。――『筋肉が全て』より
筋トレで「マイオカイン」を生み出す
私たちが筋肉を動かすたびに、この「マイオカイン」という物質が分泌され、身体中の炎症を抑え、病気から身を守ってくれる。そして驚くべきことに、マイオカインがもたらす恩恵は、身体的な健康だけにとどまらない。
運動によって分泌されたマイオカインが循環系に入り血液脳関門を通過して脳に到達すると、神経細胞の発生や成長を促す強力な物質(BDNF=脳由来神経栄養因子)が生成される。これが、学習能力や記憶力を高めると同時に、気分障害の発生を抑制し、メンタルを安定させる「天然の抗うつ薬」のように機能するのである。
つまり、日常的に筋力トレーニングをしている人は、運動によって幸福感を高める仕組みをうまく活用していると言える。
気分が落ち込んだときやストレスに押しつぶされそうなとき、ソファに横たわってじっとしているのは逆効果である。身体を動かさなければマイオカインは分泌されず、脳の機能は低下し、ネガティブな感情のループから抜け出せなくなる。
幸福は、誰かから与えられるものでも、偶然やってくるものでもない。自分の意思で筋肉を収縮させることによって、自らの体内で作り出すことができるのだ。そう考えると、筋力トレーニングは健康法であると同時に、幸福度を高める実践法でもあるのだ。
(本記事は、ガブリエル・ライオン著『筋肉が全て━━健康・不老・メンタル、人生のすべてが変わる唯一の方法』に関連した書き下ろし記事です)
医師(DO)
イリノイ大学で栄養科学の学部課程を修了後、セントルイス・ワシントン大学において老年医学・栄養科学の臨床・研究フェローシップを修了。健康、パフォーマンス、老化、疾病予防におけるタンパク質の種類および摂取量の実践的応用に関する分野の専門家、教育者として活躍している。筋肉についての最新研究を網羅した本書は全米で大きな話題を呼び、ニューヨーク・タイムズベストセラー、ウォール・ストリート・ジャーナルベストセラー、USAトゥデイベストセラーとなり、世界各国での刊行が続いている。






