サラリーマンでありながらサンダンス映画祭で日本人初のグランプリを受賞した映画監督/脚本家の長久允氏。その思考法を存分に伝える『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』から、抜粋・再構成し、作品づくりの根幹に迫る。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

脚本の教室Photo: Adobe Stock

自分には才能があるのか

 いまの仕事を続けていて、本当に良いのだろうか。

 自分はいつ芽が出るのか。

 転職するべきか、ここにいていいのか……。

 やりたいと思っていた仕事ほど、そんな迷いが生じるかもしれない。

 どの職業にも、軽々と成功を手にしてしまう「天才」と呼ばれる人はいる。自分は到底かなわないのではないか。

 電通社員でありながら映画監督として活躍する長久允さんの著書『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』(ダイヤモンド社)には、こんな記述がある。

 そもそも「天才」なんていない、と私は考えています。絶対にいない。絶対にいないというか、全員「天才」である、とも言えるかもしれません。

 

 たとえば、近所の商店街の精肉店の店主が考えていることやルーティーンや見ている景色が映画になったらきっとおもしろいでしょう。たとえば、ある小学3年生の考えていることがすべて映画にできたらおもしろいでしょう。現に、TikTokで流れてくる夜職の女性の仕事後に納豆を食べるだけのVlogは目が離せない映像になっています。

 

――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』p.114より

 そして、「私たちは、全員、良い」と力強くつづける。

「あなたにしかできない」こそ良い

 全員良いのだから、自分の経験に紐づいたものを表現すべき、と言う。完璧でなくてもいいとも言う。

 長久さんは映画『トイ・ストーリー2』を例に挙げ、こう鼓舞する。

 しかし、それは行きすぎて、「無駄がなさすぎる脚本」になっているとまで感じるのです。

 私たちの人生は無駄だらけなのに!!!!

 

 登場人物たちは2時間をかけて全員が完璧に成長しすぎているのです。

 私たちは何年かけたって大して成長なんかしないのに!!!!!

 

 それにそもそも私たちは「物語」のためには存在していない、超絶意味のない無駄な存在です。だから『トイ・ストーリー2』で泣いちゃいけない。ブチギレなければいけない。そう思ってしまったわけです。


――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』p.112より

 たしかに、完璧なものだけが良いものではない。たとえそれが未熟であっても、その世界観や情熱に心を打たれることはある。

 そして、「誰でも作れる」「それっぽいもの」を作りたいわけではない

 だからこそ、いつでもこの言葉を胸に置いて、自分にできることをやっていきたい。

 そもそも自分だけしかわからない「個人的なもの」を作品にしてもいいのだろうか、と不安になるかもしれない。
 でも安心してほしいです。ポン・ジュノ監督が『パラサイト 半地下の家族』(2019年)でアカデミー賞を獲ったときにスピーチで、スコセッシ監督の言葉を引用してこう言いました。

 

「最も個人的なことが、最もクリエイティブなことだ」
 The most personal is the most creative.

 

――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』p.113より