けれども、私が垂れ幕を見たとき、いろいろなことが頭の中に思い浮かんできました。「これを実現するには、どういう方法があり得るのだろう」と、ついあれこれと想像してしまったのです。

 就職率という数値は、「分母」と「分子」の関係で成り立っています。分母である「就職希望者」が減れば、同じ数の就職者でも就職率は上がります。逆に、分子である「就職者」が増えれば、やはり就職率は上がります。制度上、この数値を高める方法はいくつか存在するのです。

就職が難しそうな学生に
別の選択肢を提示することも

 多くの大学では大学4年生を対象に就職状況調査が行われており、そこで「就職希望」の意向が尋ねられます。一人ひとりの学生と面談を行い、就職が決まらないように思われる学生に対して、「今年は就職希望を出さず、もう1年準備してみてはどうか」と助言すれば、結果的に就職率の分母を減らすことができます。

 また、いったん提出した「就職希望」の届けを、就職活動の様子を見ていて「うまく行かないようだ」と判断したときに取り下げさせるという方法でも、同じように分母を減らすことにつながります。いずれも、制度上は不正ではありません。

 就職が決まらないような学生に対して、「来年もう1度チャレンジしてみてはどうだろうか」と、留年を勧めるのもひとつの方法です。あるいは大学院への進学を勧めたり、系列の専門学校への進学を勧めることによっても、就職率の分母となる就職希望者の人数を減らすことにつながります。

 一方で、より確実に就職できそうな企業や職種へと学生たちを誘導することも、就職率を高める方法のひとつです。ただし、学生の希望や適性よりも「就職できること」が優先されるようになると、進路指導の方向性そのものが変わってきます。

 結果として、「学生一人ひとりの将来を支援する」という本来の目的が、「大学の就職率を維持する」という目的に置き換わってしまうのです。