『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
児童精神科医による大ヒット書籍のコミカライズ版として、くらげバンチ(新潮社)で連載されている『ケーキの切れない非行少年たち』(原作/宮口幸治、漫画/鈴木マサカズ)。今回は、第33話『自分の人生』から、原作の立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治氏が漫画に描けなかったエピソードを紹介する。
何度傷ついても、求めてしまう…
「親とのつながり」を諦められないワケ
栗本陸(仮名)の誕生日の面会の日、母親は写真を持ってきます。しかし母親は、その日が陸の誕生日であることを知りませんでした。写真には、陸の弟と妹が写っていました。陸はそこで初めて、自分にもきょうだいがいることを知ります。
長い間、家庭のなかに居場所がなく生きてきた陸にとって、それは大きな出来事でした。
母親から「少年院を出たら、弟と妹の面倒を見てほしい」と言われた陸は、深く考える間もなく「わかりました」と答えます。ようやく得られた家族とのつながりを、失いたくなかったのでしょう。
しかし母親は陸の将来を一緒に考えるというよりも、家計を支える働き手として陸に期待していることが、次第に分かってきます。
陸は高校へ進学し、将来は介護士になりたいと母親に話します。ところが母親は、「高校へ行っても同じ」「働いてもらわないと困る」と言い、進学よりも早く働くことを勧めます。
陸は、母親が自分と暮らしたいと言う背景に、お金の問題があることを薄々感じ始めます。
それでも、また傷つけられるかもしれないと分かっていても、陸は母親を求めてしまいます。これまで誰かに頼られる経験がほとんどなかった陸にとって、頼られることは、「自分にも必要とされる価値がある」と感じられる出来事だったのでしょう。
虐待を受けてきた子どもであっても、親を求め続けることは珍しいことではありません。
子どもにとって親は、本来なら自分を守り、安心を与えてくれる最も身近な存在です。そのため、傷つけられた経験があっても、「いつか優しくしてくれるかもしれない」「自分を必要としてくれるかもしれない」と期待を捨てきれないことがあるのです。
その後、陸を長く支えてきた児童養護施設の施設長が、遅れても誕生日を祝うために面会へ訪れます。
施設長は陸に何かを求めるのではなく、陸という一人の人間を覚え、気にかけ続けてきました。
陸は施設に戻ることも考えますが、やはり母親のことを忘れられません。しかし結局、母親は、陸が過去に起こした性の問題行動を理由に、同居を断ります。
少年院を出た陸は児童養護施設に戻り、高校へ通うことになります。
そんな陸のもとに、母親から「お金を貸してほしい」と突然電話がかかってきます。今度こそ自分の人生を生きていくと決めた陸は、母親からの電話を途中で切り、初めて自分から距離を取ることができたのです。
非行少年の中には、親との不安定な関係に翻弄され、傷つきながら成長してきた子どもたちもいるのです。
原作者である宮口幸治は、児童精神科医として、実際に医療少年院の勤務歴があります。その経験から書いた『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)をマンガ化した作品。マンガの続きは「ケーキの切れない非行少年たち」でチェック!
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社







