「○○ホテルまでお願いします。急ぎませんので、安全運転で」。

 こちらに「安全運転」を求めているわけだが、命令口調ではない。その後は必要以上に話すことはなく、静かに窓の外を眺めていた。沈黙が気まずく感じられることもない。

 目的地へ着くと、料金を支払い、「ありがとうございました」の一言だけを残して車を降りていった。その所作は無駄がなく洗練されていた。

 タクシーの車内でどんな振る舞いをしても、運転手以外は誰も見ていない。だからこそ、その人が持つ品格が自然に表れる。この男性客とのやり取りを通じて、私はそう感じさせられた。

お金持ちの乗客ほど
「お釣りはいりません」と言わないワケ

 また、富裕層ほどお金を丁寧に扱うことも分かった。

 これは「金遣いが荒くない」という意味にとどまらない。「お金というモノ(お札や小銭)」自体を大切に扱うということだ。

 運賃清算の際、1万円札を出し、私がお釣りを渡すと、1枚ずつ確認して財布へしまう。そして、「ありがとうございました」と一言添えて降りていく。彼らは、その所作を徹底している。

 さらに、長年見てきた印象では、富裕層ほど「お釣りはいりません」という言葉を口にしない。

 もちろん、多岐にわたる乗客の中には、そう言って下さる方もいらっしゃる。非常にありがたいことであり、そうした心遣いを否定するつもりは全くない。

 だが、多くの富裕層はお釣りをきちんと受け取り、大切にしまう。決してケチなわけではなく、「お金を最後まで自分で管理すること」が習慣になっているのだ。

 受けたサービスには適切な対価を支払い、お釣りも雑に扱わない。出ていくお金と手元に残るお金を正確に把握する。お金を使う際には明確な「基準」を持ち、必要なものには惜しまず使う一方で、必要のないものには決して使わない。

 このようなお金との向き合い方は、会社経営や資産運用にも通じる。そんな姿勢こそが、彼らが富裕層である所以(ゆえん)なのだろう。