本物の富裕層は
自慢話をしない

 長距離乗車の際も同様だ。乗車時間が長くなると、会話に発展することもあるが、決して横柄な態度は取らない。

「最近は外国人のお客様が増えましたか?」
「景気はどうですか? 最近のタクシー業界は好調だと聞きますが」

 そんなふうに、こちらに興味をもって質問し、私の答えに耳を傾けてくれる。自分の成功や肩書については多くを語らない。本当に自信があるからこそ、自分を誇示せず、相手を尊重できるのだろう。

 タクシーは不思議な空間である。会社では社長と呼ばれる人も、病院では名医として尊敬される人も、車内では一人の乗客だ。ドアの内側では、肩書や役職が外れた生身の人間になる。

 だからこそ、車内での振る舞いからは、その人の本質が見えてくる。長い人生の中で培われた習慣だからこそ、無理やごまかしは利かない。

 私が富裕層と接してきて感じたのは、「銀行口座の残高」だけでは測れない、人としての豊かさがあることだ。

 自分の成功を誇らず、ブランド品をひけらかさず、相手が誰であっても態度を変えない。お金そのものを丁寧に扱い、時間を大切にする。

 このような人としての豊かさは、車内での何気ない所作の中に宿る。その学びを胸に、私は今日もまた、一人ひとりの乗客と向き合っている。