Photo:Tomohiro Ohsumi/gettyimages
サイバー攻撃や企業による人員再配置など、AIを巡る議論は、熱狂と恐怖の両極端に振れている。しかし、米著名投資家ケン・フィッシャー氏は、そのどちらも的を外していると断じる。AIは確かに世界を大きく変え得るが、その進み方は人々が思うより遅い。なぜAIは“ウサギ”ではなく“カメ”なのか、日本にとっての現実的な恩恵とともに読み解く。
熱狂も恐怖も静めよ
AIの未来は誰にも読めない
日銀は、AIを使ったサイバー攻撃への警戒を銀行に促した。メタやみずほフィナンシャルグループなどは、AIによる効率化を背景とした事務部門の再編を進めていると報じられている。富士通やNECは、米AI大手アンソロピックとの提携を打ち出している。世界に目を向ければ、イランを巡る戦争の弱気材料を打ち消せるのはAIだけだ、とまで言う声がある。AIによる生産性向上が利益を急増させ、インフレを消し去る一方で、何百万人もの雇用が失われる、というわけだ。
Ken Fisher/運用資産25兆円超の独立系運用会社、フィッシャー・インベストメンツの創業者。米国の長者番付「フォーブス400」常連の億万長者。ビジネスや金融分野の出版物に多数寄稿し、投資関連の著書も数多い。父はウォーレン・バフェット氏が師と公言し、「成長株投資」の礎を築いた伝説的投資家である故フィリップ・フィッシャー氏
しかし、こうした動きは大騒ぎしすぎだ。私は昨年10月、AIは株式市場のバブルを生み出してはいないと述べた(高市政権、金融政策、AIバブル…米著名投資家が解き明かす投資家が直面する「6つの疑問」)。今もその見方は変わらない。ではAIは、経済、産業、そして私たちの生活にどう影響するのか。事実とSFをどう見分けるのか。まずは、すべてを少し落ち着いて見てほしい。
2023年、私はAIの現実はもっと複雑だと書いた。その後、期待も恐怖も膨らむ一方だった。だが、AIの未来は「専門家」にすら分からない。AIを巡る思惑だけで株を売買するのは、思い上がりにすぎない。あらゆる可能性が誇張されている今、自分だけが他人の知らない未来を知っている、などと思うべきではない。
株式市場は、遠い未来の仮説も、急速で巨大な変化を予想する見通しも、すべて先回りして織り込む。しかも、その多くはディストピア的で、たいていは悲観的だ。最近の人員削減の理由としても、AIは企業側が挙げる上位項目に入る。米フィンテックのBlockがAI最適化のために大幅な人員削減を進めたと語る者もいる。メタのリストラも同じ文脈で語られている。







