親を優先? 自分を優先?→〈いつか自分にも起こる現実〉にぐうの音もでない〈風、薫る第83回〉

なぜ藤田はキャラ変したのか

「診察の所見では胃がんで。おそらくすでに全身に。残念だけど手術は難しい。治療法はもう…」

 藤田は大好きな直美だから診断結果を話してしまうのか。母親ではなく母親のような人でもそんな情報を語っていいものなのか。明治時代だからちょっとゆるいのか。なんだかよくわからないが、藤田は真顔で語り続ける。

「医者は…!医者は治療法がない人にできることはほとんどない。痛み止めの薬を与えるくらいで…。でも、治らない患者にも、病院に来られない患者にも、日々看護は必要だから…。頑張って」

 え。藤田、キャラ変? 嫌味なだけで根は悪い人ではないとは思って見ていたけれど、こんな真面目な、誠実な、話をする人だったのか。

 ここでもその疑問は「僕の祖母も長患いをして家で寝込んでいたから」という理由が語られる。

『風、薫る』は言い訳、後出しが多いドラマであることにはだいぶ慣れてきて、それがこのドラマの特徴と受け止められるようにはなってきた。

 藤田激変の裏には、『らんまん』(23年度前期)で、坂口が演じた、主人公・万太郎(神木隆之介)の家の分家の長男が影響しているのかもしれない。このときも、本家を妬んで嫌味たらたらな人物だったが、最後に、ちょっと人情を見せる。

『風、薫る』『らんまん』両方の脚本を担当している脚本家・長田育恵は、坂口のセリフの発し方を絶賛していた。人は皆、白だけでも黒だけでもなく、いろいろな色を出し入れしていることを感じさせられる俳優だから、今回も、いつもはコメディリリーフだけれど、真面目な面もあるのだという場面を与えられたのであろう。

 いずれにしてもとても愛嬌のある俳優だ。

 藤田は特別に往診したうえ、往診料無料。小川のことをつゆ知らず、そこまで献身する藤田の直美への気持ちを察して、文は微笑む。

 帝都医大のエリートと「いっそこのまま結婚…」なんてふざけたりして。でもそのあとは「ここへはもう来なくて結構です」とシリアスな流れになる。