前例をただ踏襲しただけの仕事、誰がやっても同じ、身が入っていない……。そんな働き方にならないために、自分らしく働きながら結果も出すためのヒントを、サラリーマンでありながらサンダンス映画祭で日本映画史上初のグランプリを受賞した長久允氏の思考から辿ります。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

組織の違和感Photo: Adobe Stock

自分の判断が抜け落ちる

 資料はきれいにまとまっている。企画書の体裁も整っている。
 会議で説明すれば、それなりに通じる。

 けれど、なぜか相手の心に残らない仕事があります。

 それは、能力がないからではないのかもしれません。むしろ、仕事に慣れている人ほど、無意識にやってしまう習慣があります。

 それは、最初に「どう見えるか」から考えてしまうことです。

 どうすれば評価されるか。どうすれば通りやすいか。どうすればそれっぽく見えるか。

 もちろん、それらは仕事を進めるうえで必要な視点です。けれど、そこから始めてしまうと、仕事の中心にあるはずの「自分は何を本当にいいと思っているのか」が抜け落ちてしまうことがあります。

「知らないから無理」ではない

 長久允さんの『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』を読んでいると、そのことを考えさせられます。

 長久さんは、社会人になって初めて映画を作ったときのこと(のちにサンダンス映画祭でグランプリを受賞した作品)について、こう振り返っています。

 当時、私は監督でもなんでもなかったのでスタッフの知り合いはほとんどいませんでしたが、人生で1回きりの映画ですから、後悔しないように本当に好きな技術者たちと作ることにしました。
 好きなルックのMVのカメラマンさんや照明さんを調べて連絡をとり、参加してもらいました。音楽もこの映画にぴったりのバンドにDMを送り、最高の曲を作ってもらいました。俳優も、普通は出てもらえないような方々ばかりでしたが、熱意を持って企画を説明し、出演していただけました。

 

――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう脚本の教室』p34より

 ここで大事なのは、「知り合いがいないから無理だ」と考えるのではなく、「人生で1回きりだから、後悔しない選択をする」と決めていることです。

 そこには、ただ仕事を成立させるための段取りではなく、「自分はこれを本当にいいと思っている」という強い意志があります。

「中身のある仕事」とは、単に情報量が多い仕事やきれいに整っている仕事ではなく、自分が本当にいいと思える選択が、細部にまでわたっている仕事のことでしょう。

薄めるのではなく、深堀りする

 反対に、中身のない仕事は、雑な仕事とは限りません。

 むしろ見た目は整っています。必要な情報も入っています。論理も通っています。
 ただ、そこに「自分はこれを選んだ」という実感がないのです。

 誰かが好みそうな言葉を選ぶ。過去に通った型をなぞる。波風が立たない結論にする。

 そうすれば、大きく失敗することは少ないかもしれません。けれど、その仕事はだんだん、自分がいなくても成立するものになっていきます。

 長久さんは、こうも語っています。

 年齢も、人種も、国境も、飛び越えて、人間の心は共鳴することがある。だから、グローバルなんかあざとく狙わずに、しっかりと全力で自分の文化圏の中で描写をしていいのだ、ということを実感しました。

 

――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう脚本の教室』p37-38より

 これは、一般の仕事にもそのまま当てはまるはず。

 多くの人に届かせようとするほど、私たちはつい、誰にでもわかる言葉、どこかで見た表現、無難な落としどころを選びたくなります。

 けれど、本当に人に届くものは、最初から広く受けようとして薄めたものではなく、自分が見ているもの、自分が信じているものを深掘った先にあるのかもしれません。

自分だけのやり方を見つける

 長久さんは、脚本の書き方についてもこう言います。

 人それぞれが、それぞれに合った脚本術があるはずで、今から紹介するのは、自分の脳内の感覚が表出しやすいやり方を獲得するためのいくつかの実験的手法、というイメージです。

 

――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう脚本の教室』p59より

 うまい人の型を学ぶことは大切です。けれどその先で、自分の考え、自分の好き嫌い、自分の判断など、自分が本当に届けたいものが表に出るやり方を、少しずつ見つけていく必要があります。

「中身のない仕事」を量産する人が無意識にやっている残念な習慣とは、自分の判断を後回しにして、先にそれっぽい形を作ってしまうこと。

 だから、一度考えてみるといいのではないでしょうか。

 自分はこの仕事を本当にいいと思っているのか、この選択に後悔はないか、自分の感覚はちゃんと仕事の中に出ているか、と。