里美さんの声は、不思議なほど静かでした。怒っているというより、怒る力さえ使い果たした人の声でした。
「裁判所も不貞を認めました。慰謝料も支払われました。私は勝ったんです。でも、何も終わっていませんでした」
不倫は許せないが
相談者の悩みは違うところにあった
長く探偵をしていると、依頼者からこう聞かれることが何度かありました。
「証拠さえ取れれば、全て変わりますよね?」
残念ながら、必ずしもそうではありません。
証拠は交渉や裁判を動かす重要な材料です。しかし、判決が人の心を入れ替えたり、関係を強制的に終わらせたりすることを保証してはくれないのです。
里美さんのケースもこの典型的なもので、判決後も、隆一さんと女性の関係は続いていました。
隆一さんが自宅へ戻るのは週末だけ。平日は連日のように飲み歩き、その後は女性のマンションへ帰っているといいます。
「子どもたちには、ずっと『パパは仕事で忙しいの』と言ってきました。でも、もう何を信じて、どう動けばいいのか分からないんです」
里美さんが精神的に参っている原因は不貞だけではありませんでした。
私は里美さんに尋ねました。「里美さん、本当に一番困っていることは何ですか?」
しばらく沈黙した後、返ってきた答えは「不倫は許せませんが、それよりも子どもたちとの生活です」
数秒間自分の手元を見ながら気持ちをまとめた後に続けました。
「夫はいつも『金がない、金がない』と言うんです。それなのに高級店で飲み歩き、女性が住んでいるマンションの家賃まで負担しているようなんです。家に入れる生活費は最低限で、現金の手渡しのみです。通帳もカードの明細も一切見せてくれません」
判決後、隆一さんは「もう女性とは会わない」「生活費も希望額を毎月支払う」と約束しました。しかし、それさえ3カ月も続きませんでした。
最低限の生活費では貯金もできず、成長するにつれてかかる子どもたちの教育資金など、将来への不安は募る一方でした。







