健康診断で「異常なし」と言われると、多くの人は安心するだろう。とくに血糖値が正常なら、「糖の摂りすぎとは無縁」と思うかもしれない。しかし、元オックスフォード大の医学研究者であり、「糖と脳」の専門家として知られる医師・下村健寿氏は、健康診断では見つからない「見えない異変」が、体や脳で静かに進んでいる可能性があると指摘する。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)
※本稿は、下村健寿『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の一部を引用・編集して作成した記事です
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健康診断では見つからない「異常」
健康診断で血糖値が正常だった。
だから安心。
そう考えている人は多いだろう。
もちろん、血糖値に異常がないことは悪いことではない。
しかし、元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家・下村健寿氏は、著書『糖毒脳』で、「正常」という結果だけでは安心できないと警鐘を鳴らしている。
じつは、血糖値が正常でも、体の中では異常な状態が進んでいることがあるという。
若い頃は、たとえ糖を多く含んだ食事をたっぷりとっても膵臓が頑張ってたくさんのインスリンを出すので、血液中の血糖値は正常に保たれます。このときに血糖値を調べても、結果は「正常」となるでしょう。
しかし体の中ではすでに、水面下で「異常な状態」に陥っています。本来では考えられないほど大量のインスリンが血管の中にどんどん放出されているのです。
健康診断でも、血液中のインスリン量を日常的に測定することはまずありませんから、皆さんは自分がいま、このような「インスリン過多」の状態にあるのかどうか、ほとんど気づくことができません。
(下村健寿著『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』より)
つまり、健康診断で「異常なし」と言われても、インスリンだけは大量に分泌され続けている可能性があるのだ。
本当に怖いのは「インスリン抵抗性」
糖の過剰摂取によって、インスリンの大量分泌が促される。
その状態が続くことで、事態はさらに悪化していく。
その鍵が、「インスリン抵抗性」である。
下村氏は、その仕組みを次のように説明している。
食べた糖は運動などで筋肉に燃料として使われ、それでもまだ余っていると、脂肪細胞にどんどん備蓄されていきます。たくさん食べて運動をしなければ、この糖の備蓄に拍車がかかります。つまりこの状態が長く続くと、体は少しずつ太り始めます。
太ると全身に炎症が誘発されることはすでに述べました。すると、この慢性的な炎症によって、体の中の細胞はインスリンに対して反応しにくくなります。「感度が下がる」と言ってもいいかもしれません。これを「インスリン抵抗性」と呼びます。
インスリンの効きが悪くなるのですから、本来であれば、糖が筋肉などの細胞に取り込まれにくくなり、血糖値は上昇するはずです。
ですが実際には、血糖値はすぐには上がりません。なんとか血糖値を正常に保とうとして、膵臓のベータ細胞が必死に大量のインスリンを出し続けることで、一時的に血糖値の上昇を防ぐからです。
インスリンの効きが悪い分を、「量」でカバーして補うわけです。
(下村健寿著『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』より)
糖を摂りすぎると脂肪がつく。
その脂肪が誘発する炎症によって、インスリンが効かなくなる。
だから、さらに大量のインスリンを出す。
こうした悪循環が始まってしまうのである。
異変に気づいてから対策しても遅い
膵臓は血糖値を正常に保つため、休むことなくインスリンを分泌し続ける。
しかし、その働きにも限界がある。
下村氏は、この状態が長く続くことにはリスクがあると指摘している。
ベータ細胞はインスリンという水を含んだ雑巾のようなものです。必死に絞り続けていれば、いつか雑巾は乾ききってしまい、インスリンを十分に分泌できなくなってしまいます。
そうなると、もはや血糖値を下げるメカニズムは体の中には残されていません。ここにきて初めて、血糖値は本格的に上昇を始めます。こうなると、もう手遅れ。あとはまるでダムが決壊したかのように、一気呵成にバランスが崩れていきます。
(下村健寿著『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』より)
インスリンは無尽蔵に出続けるわけではない。
大量分泌が続くと、やがて枯渇してしまう。
インスリンは血糖値を下げるだけでなく、脳内では、認知症の原因物質から脳を守る役割も果たしていると言われる。
つまり、インスリンが枯渇すると、糖尿病や認知症の発症リスクが高まってしまうのである。
血糖値が上がってから対策を始める人は少なくない。
しかし、たとえ健康診断で血糖値が正常であっても、体の中では長年にわたってインスリンの酷使が続いている可能性があるのだ。
健康診断の結果にかかわらず、普段から節度のある食習慣を心がけることが大事である。
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。








