地図は、細かく正確に描けばよいわけではない。大切なのは、見た瞬間に「だいたいこの辺りだ」と直感的に理解できることだ。では、その見やすさは、どのように生まれるのか。本記事は、『地図で学ぶ深読み世界史』の著者、伊藤氏に、色の濃淡や境界線の引き方、似た色を隣り合わせにしない工夫を聞いたものである。そこから浮かび上がったのは、地図とヨーロッパの紋章、さらに道路標識までをつなぐ「遠くからでもひと目で意味を伝える」という共通の発想だった。正確さ以上に視認性を重んじる地図づくりの思想と、歴史の見え方を変える色のルールに迫る。
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見やすい地図をつくる「色と境界線」のルール
地図を作るうえで、細かく正確に描くことはもちろん大切である。ただ、それ以上に重視したのが、ひと目見たときに内容をきちんと認識できるかどうかであった。
たとえば交通ルートや領域を示すとき、情報を細かく盛り込みすぎれば見づらくなるが、かといって形を大まかにしすぎても、どこを示しているのか頭に入ってこない。見た瞬間に「ああ、だいたいこの辺りだな」と理解できることが重要である。そのため、視覚的なインパクトを持たせながら、直感的に把握できるよう、色の塗り方や線の引き方には特にこだわった。
色を塗り分ける際には、いくつかのルールがある。ひとつは、濃い色と薄い色をはっきり分けることである。もうひとつは、似た系統の色をなるべく隣り合わせにしないことである。
似たような色を並べると、境界が曖昧になり、それぞれの領域を区別しにくくなる。そこで、赤と白、黄色と黒といった、明るさや濃さの差が大きい色を組み合わせると、境界がはっきりして見やすくなる。
地図の色使いは、ヨーロッパの紋章と同じだった
実は、こうした色使いの考え方は、ヨーロッパの紋章におけるルールとよく似ている。紋章の色使いには、古くから一定の決まりがあった。たとえば、青と赤、黒と青といった、同じような濃さの色を隣り合わせにすることは避けられてきた。反対に、赤と白、赤と黄色、黄色と黒、黄色と青など、遠くからでも区別しやすい色の組み合わせが多く用いられた。
なぜなら、紋章はもともと、戦場で自分が何者であるかを示すためのものだったからである。離れた場所から見たときに色や模様が潰れてしまえば、どの人物や軍勢の紋章なのか識別できない。そのため、遠くからでもひと目で見分けられる、視認性の高さが求められた。
この紋章の色使いの考え方は、現在の道路標識にも受け継がれている。道路標識もまた、運転中に遠くから見た瞬間、意味を判断できなければならない。赤と白、黄色と黒、青と白など、はっきりと区別できる色が使われているのは、そのためである。ヨーロッパで発達した道路標識には、紋章と共通する視認性の発想が生かされているのである。
地図も同じである。どれほど多くの情報が描かれていても、何を示しているのか瞬時に理解できなければ、情報は十分に伝わらない。似た色を使わなければならない場合には、境界線を太くしたり、破線を使ったりして、領域の違いを明確にする必要がある。
地図と紋章は、一見するとまったく異なるものに見える。しかし、どちらも「遠くからでも、ひと目で意味が伝わること」を重視している点では共通している。正確に描くことだけではなく、見た人が直感的に理解できるようにすること。その視認性への工夫こそが、地図と紋章を結びつけているのである。









