一方で、QVには実装上の課題や批判も存在します。例えば、有権者が二次関数的なコスト計算を正確に理解し、戦略的に行動できるかという認知的な負担の問題、複数の投票者が共謀して特定の案件に集中的に投票する「共謀(Collusion)」のリスク、投票クレジットの初期配分の公平性の問題などが指摘されています。これらの課題に対応するため、インターフェースの工夫や、共謀を検知・抑制するメカニズムの研究も進められています。

投票の発想を
寄付に応用した「QF」

 QVの理念を、公共財(例えば、オープンソースソフトウェア、独立系メディア、学術研究、環境保護活動など、社会全体に利益をもたらすものの、市場メカニズムだけでは十分に供給されにくい財やサービス)への資金提供に応用したのが、Quadratic Funding(QF)です。

 QFの基本的な仕組みは、「ある公共財プロジェクトに対して、より多くの個人から(たとえ少額でも)寄付が集まるほど、運営母体(マッチングファンド)から、そのプロジェクトに対してより多くの追加資金が、寄付者数と寄付額に基づいて二次関数的に計算された額で提供される」というものです。具体的には、各プロジェクトへのマッチング額は、個々人の寄付額の平方根の合計の二乗に比例して決定されます。

 この仕組みの巧妙な点は、一人の富裕な寄付者が多額の資金を提供するよりも、多数の一般市民が少額ずつでも幅広く支持しているプロジェクトの方が、結果的により多くのマッチング資金を獲得できるように設計されていることです。これにより、本当にコミュニティが価値を認めている公共的な活動に対して、より民主的かつ効率的に資金が配分されることが期待されます。QFは、「人々の寄付の『広がり』を重視する」メカニズムと言えるでしょう。

『21世紀を動かす思想』書影21世紀を動かす思想』(樋口恭介、集英社)

 QFの最も有名な実践例が、イーサリアムエコシステムを中心に活動する「Gitcoin」というプラットフォームです。Gitcoinは、定期的に「Gitcoin Grants」というQFのラウンドを開催し、オープンソースプロジェクトやイーサリアム関連の公共財プロジェクトに対して、コミュニティからの寄付とマッチングファンドからの追加資金を提供しています。これにより、多くの有望なプロジェクトが初期の資金調達に成功し、エコシステム全体の発展に貢献してきました。

 QFは、Web3(ウェブスリー・分散型ウェブ)の文脈において、DAO(分散型自律組織)による公共財の持続的なファンディングメカニズムとして、また、より広範な社会における新しい形のフィランソロピー(人類愛に基づく社会貢献活動)や市民による公共投資のモデルとして、大きな可能性を秘めていると考えられています。