アメリカの大統領が誰かを
私たちが知っているのはなぜか?

 陰謀論が強力なのは、それが信頼の問題を浮かび上がらせるからだ。私たちの持つ知識は、実は信頼と隣り合わせになっている。例えば、私たちはアメリカの大統領が誰かを知っている。わからなければ、「そんなことも知らないの?」と馬鹿にされるだろう。しかし、私たちの大半はそれを、マスメディアを通じて知っているにすぎない。だから、大統領を知っていると思うとき、私たちはマスメディアを信じていることになる。地球平面説も、まさにこれを問題にしている。その主張は、次のようなものだ。

 ほとんどの人は、地球が球体だと思っているが、それは学校やテレビで教えられたことを信じているにすぎない。自分の経験に忠実になれば、むしろ、地球が平面だと考えた方が自然である。例えば、地平線は真っ平で、曲面だとは到底思えないし、地球が高速で回転していることも全く感じない。実は、宇宙から撮影した地球の写真や月面着陸の映像も、ハリウッドの特撮技術を駆使してNASA(アメリカ航空宇宙局)が捏造したものにすぎず、我々はみな騙されている……。

 平面説を受け入れるのは、その人たちが信じやすいからだと思われるかもしれない。しかし、平面論者からすれば、「球体説」に立つ人たちの方がよっぽど信じやすい。というのも、そうした人々は、学校やテレビで教えられたことを無批判に受け入れているにすぎないと言えるからだ。

 地球が球体であることを体験的に知っている人はほとんどいないし、球体であると証明できる人も少数派だろう。むしろ、「自分の経験」という一種の「証拠」に基づけば、地球は平面だと考える方が自然だとさえ言える。平面論者たちは、そう考えて、自分の納得したこと以外を拒否するのである。

粗雑な「証拠らしきもの」も
エビデンスと呼ばれてしまう

 一見すると陰謀論と正反対に見えるのが、「エビデンス」を重視する風潮である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の爆発的な広がりを背景にして、それまで耳慣れなかった「エビデンス」という言葉が、急速に日常語として定着した。