ただし、両者は全く無関係というわけでもなく、むしろ、2つの性質を兼ね備えることがある。例えば、創造論は進化論を否定するが、それと同時に偽物の理論を広めている。その意味で、「疑似科学」は、多かれ少なかれ両者の混合物だと考えられる。

 では、科学否定論には具体的にどのような事例があるのか。

タバコ業界が仕掛けた
「有害性は未確定」という疑念

 喫煙が肺がんのリスクを高めることは、今日では常識になっている。例えば、日本のタバコのパッケージには、「たばこの煙は、あなただけでなく、周りの人が肺がん、心筋梗塞など虚血性心疾患、脳卒中になる危険性を高めます」といった警告表示が付されている。以前は、「健康のため吸いすぎに注意しましょう」(1972~1989)や「あなたの健康を損なうおそれがありますので吸いすぎに注意しましょう」(1990~2005)といった注意表示に留まっていたが、「たばこ規制枠組条約」(2003)を受けて、肺がん・心筋梗塞・脳卒中・肺気腫・胎児の発育不良・早産・依存性といった具体的な健康リスクが示されるようになった。

 しかし、タバコ業界は長らく、喫煙の有害性を否定しようと試みてきた。産業分野を専門とする弁護士や広報活動の専門家に加え、科学者をも動員しながら、この認識に対する疑念を生み出そうと努めてきたのである。科学史家のナオミ・オレスケスとエリック・コンウェイは、こうした手法を「タバコ戦略」と呼んでいる(注2)。

(注2)Oreskes, Naomi and Erik M. Conway, 2010, Merchants of Doubt: How a Handful of Scientists Obscured the Truth on Issues from Tobacco Smoke to Global Warming, London: Bloomsbury Press.(福岡洋一訳、2011a、『世界を騙し続ける科学者たち(上)』序章、楽工社;福岡洋一訳、2011b、『世界を騙し続ける科学者たち(下)』楽工社)