有害説に疑念を投げかける
タバコ業界の4段階戦略

 タバコ業界の活動は、小説や映画の題材にもなっている。例えば、コメディ映画『サンキュー・スモーキング』(2005・原作1994)は、タバコ業界の情報操作を風刺している。主人公ニック・ネイラーは、タバコ研究アカデミーの広報部長である。ニックは、タバコへの批判に対して、タバコだけが有害なわけではないと反論したり、映画を使ってタバコのイメージアップを図ろうとしたりと、巧みな手練手管を駆使してみせる。

 こうした描写は、実際にタバコ業界が編み出してきた広報戦略をもとにしている。ジャーナリストのヨン・クリステンセンは、その変化を4つの局面に分けている(注3)。

 第1の局面(1953~1964)は、科学をもって科学と戦う段階である。1953年にスローン・ケタリング研究所の研究者が、マウスの皮膚にタールを塗るとがんが発生して死ぬことを発表し、報道機関から注目を集めた。これに対抗するため、タバコ業界はタバコ産業研究委員会を設立し、タバコとがんの因果関係を否定する証拠を生み出すための研究助成を行った。

(注3)Christensen, Jon, 2008, “Smoking Out Objectivity: Journalistic Gears in the Agnotology Machine,” Robert N. Proctor and Londa Schiebinger eds., Agnotology: The Making and Unmaking of Ignorance, Stanford: Stanford University Press, 268-269.
Oreskes, Naomi and Erik M. Conway, 2010, Merchants of Doubt: How a Handful of Scientists Obscured the Truth on Issues from Tobacco Smoke to Global Warming, London: Bloomsbury Press.(福岡洋一訳、2011a、『世界を騙し続ける科学者たち(上)』第1章、楽工社;福岡洋一訳、2011b、『世界を騙し続ける科学者たち(下)』第5章、楽工社)