ヤミ市場で価格が急騰
複数の供給ルート

 価格は市場の需給を映す。合法的な供給が十分であれば、ここまでの価格上昇は起きにくい。

 一方、ブルームバーグは、北京航空航天大学や西北工業大学など、中国軍との結び付きが深い「国防七子」の研究機関が、H200そのものの購入ではなく、その計算資源をレンタルする形で利用しようとしていることを報じた。

 クラウド経由のレンタルであれば、ハードウェアが物理的に国境を越えないため、米国の輸出規制だけでなく、中国税関の壁をもすり抜けることができる。その一方、台湾では、エヌビディア製の先端GPUを搭載したAIサーバーを香港へ不正輸出した疑いで摘発された事例もある。

 つまり現在、中国では高性能GPUやその計算資源へアクセスする複数のルートが併存している。

 一つは、輸出許可を受けた正規ルート(H200)だが、習近平政権自身の税関措置によって狭められつつある。もう一つは、レンタルや密輸、旧世代品の転用、ゲーミングGPUの改造など、様々な方法で高性能GPUやその計算資源へアクセスするグレーなルートである。

 重要なのは、そのどちらを通ってもなお、中国市場はエヌビディアの高性能GPUを求め続けているという事実だ。もし中国がすでに国産AIチップだけで十分なのであれば、ここまで価格が上昇し、「国防七子」が新たな調達方法を模索する理由はない。

 では、なぜこうした状況が生まれているのだろうか。

米国の輸出再開でも
エヌビディア争奪戦が続くワケ

 中国は本当に、エヌビディアを必要としなくなったのだろうか。習近平政権の公式な説明だけを見れば、そのような印象を受けても不思議ではない。

 2026年、中国政府は初めてAI訓練・推論向け半導体を「安全・信頼性認証(中国語:安全可靠測評)」の対象に加えた。これは、習近平国家主席が繰り返し強調してきた「核心技術の自主開発」という国家戦略を、具現化した動きとも言える。認証を受けた国産AIチップは、党・政府機関や国有企業、機密性の高いシステムで優先的に採用される仕組みが整えられつつある。

 ファーウェイのAscendシリーズも、中国のAI発展を支える中核技術として繰り返し紹介されている。こうした情報だけを見れば、「中国はすでにエヌビディアを代替できる」と考えてしまいがちだ。しかし、本当に見るべきなのは習近平政権のメッセージではなく、市場の行動である。

 ブルームバーグが報じた「国防七子」の事例は、そのことを象徴している。国産AIチップが存在するにもかかわらず、軍事・研究分野ではなおH200の計算資源を求める動きが続いている。

 ここから読み取れるのは、中国に国産AIチップが存在しないということではない。むしろ逆である。

 国産化は確かに進んでいる。しかし、それだけでは十分ではない。特に最先端AIモデルの開発や高度な研究用途では、依然としてエヌビディアが持つ優位性は大きい。