習近平は焦っている…中国が弾道ミサイルを「ロケット軍」ではなく「海軍」に撃たせた切実なワケPhoto:China Pool/gettyimages

2023年以降、ロケット軍高官の相次ぐ失脚が続く中、2026年7月、中国海軍が太平洋へ戦略弾道ミサイルを試射した。北海道大学公共政策大学院 公共政策学研究センター研究員の王 彦麟氏は海軍が試射したことに意味があるという。習近平政権が海上核戦力を公開した背景から、核抑止の強化と習近平政権の焦りを読み解く。(北海道大学公共政策大学院研究員 王 彦麟)

なぜ今回は「海軍」が
ミサイルを撃ったのか

 射程ではなく、「誰が撃ったのか」に注目すべきだ。中国が開発した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の「JL-3」が、「どこまで飛ぶか」よりも重要な問いがある。

 7月6日午後0時1分、中国海軍の戦略原子力潜水艦(SSBN/弾道ミサイルを搭載する原潜)が太平洋公海に向け、戦略弾道ミサイル1発を試射した。中国側が明らかにしたのは、戦略原潜からの発射、訓練用模擬弾頭の搭載、予定海域への着弾、関係国への事前通報の4点のみである。

 主要メディアの関心は、「JL-3(巨浪3型)ではないか」「射程は米本土をカバーするのか」に集中した。しかし射程だけでは、今回の試射で最も特異な点を説明できていない。

 2024年、太平洋へ大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したのはロケット軍だった。では、なぜ今回は海軍だったのか。

 この問いには、二つの「信頼」を区別して考える必要がある。一つは、装備、部隊、指揮統制が実際に機能するという内部の運用能力。もう一つは、潜在的な相手が「中国は必要な時に報復できる」と信じる、対外的な核抑止の信頼性である。

 試射には、実際に運用できる能力をを「必要な時には報復できる」という対外的なメッセージにに変え、核抑止への信頼に結びつける手段となる。

1980年、それは
中国が初めて核を「届かせた」年

 1964年に核実験、1967年に水爆実験に成功した中国だが、核爆発装置を持つことと、核弾頭を大陸間の距離まで運ぶことは別の能力だ。

 その隔たりを埋めたのが、1980年の東風5号(DF-5)全射程試射である。背景には中ソ対立の深刻化があり、文化大革命による混乱と1970年代の度重なる失敗を経て、ようやく成功に至った。