国産化だけでは不十分
依然残るエヌビディアの優位

 その理由は、GPUそのものだけではない。エヌビディアには長年蓄積されたCUDAエコシステムがあり、多くのAIモデルや開発環境がそれを前提として構築されている。ハードウェアだけを国産品へ置き換えれば済む問題ではなく、ソフトウェアや研究開発の生産性まで含めて考える必要がある。

 軍事研究や最先端AI開発では、性能だけでなく「時間」そのものが競争力になる。だからこそ、取得コストが上がっても、調達リスクが高くなっても、なおエヌビディアを選ぶインセンティブが残る。

 ここで重要なのは、「中国は国産化に失敗した」という話ではない。より正確に言えば、部分的な国産化は進んでいる。しかし、それは完全な代替を意味しない。

 そう考えると、この問題は「米国が売るか、売らないか」という単純な輸出規制の話ではなくなる。本当に問われているのは、なおエヌビディアを求め続ける市場の需要を、習近平政権がこれからどう管理していくのかという点なのである。

習近平政権が管理するのは
半導体か、計算資源か

 では、市場がなおエヌビディアを求め続けるなか、習近平政権はどう対応しているのだろうか。現在の中国のAI政策には、少なくとも二つの目標がある。

 一つは、AI競争で世界の先頭集団に残ること。もう一つは、AI半導体の国産化を成功させることである。しかし、この二つは必ずしも一致しない。もし市場に完全な自由を与えれば、多くの需要は性能の高いエヌビディアへ向かうだろう。

 そうなれば、中国の半導体産業の育成は遅れ、同時にエヌビディアへの依存も続くことになる。逆に、全面的に国産品だけを使わせれば、AI研究や最先端開発の速度そのものが落ちる可能性がある。

 習近平政権が直面しているのは、このジレンマである。

 そこで現在の公開情報を並べてみると、一つの特徴的な構図が浮かび上がる。

 一方では、前述の「安全・信頼性認証」や、ITインフラの国産化を目指す「情報技術応用イノベーション」(中国語:信創政策)を通じて、党・政府機関や国有企業、機密性の高いシステムでは国産AIチップの利用が制度として推進されている。

 他方では、ブルームバーグが報じたように、軍事・研究分野では依然としてエヌビディアの高性能GPUを求める動きが確認されている。さらに、前述の通りフィナンシャル・タイムズの報道は、習近平政権がH200という正規ルートそのものを絞り込んでいる可能性を示しており、この構図を補強する材料といえる。

 もちろん、これだけで習近平政権が制度として用途を厳密に切り分けていると断定することはできない。

 これが習近平指導部の精緻なトップダウン設計によるものなのか、あるいは半導体産業を保護したい税関と、AI競争で後れを取りたくない軍事・研究部門との「内部の矛盾」が生み出した結果論なのかは定かではない。

 しかし、公開情報から観察できる現象だけを整理しても、商業・行政用途と、最先端研究・軍事用途では、異なる資源配分が行われているように見える。