中国の習近平国家主席2026年5月20日 中国・北京の人民大会堂で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との拡大会合後に行われた署名式に出席する中国の習近平国家主席 Photo:SPUTNIK/JIJI

2026年7月1日に中国で「民族団結進歩促進法」が施行される。教育、企業、メディアなど社会全体に「中華民族共同体意識」を浸透させることを目的とし、国外の組織や個人への法的責任追及も規定している。日本企業や日本人にどのような影響を与えるのか。そしてなぜ今この法律を施行するのか。その背景には習近平国家主席の危機感があると言う――。(北海道大学公共政策大学院研究員 王 彦麟)

2020年の香港国家安全維持法で
気づけなかったこと

 2020年、香港国家安全維持法が施行されたとき、中国に拠点を置く外資系企業の多くは「これは香港の政治の話だ」と判断し、投資を継続した。あの判断が間違いだったと気づいたのは、それからずいぶん経ってからのことだ。

 なぜなら、同法が変えたのは香港の政治環境だけではなかったからである。香港に適用された国家安全の論理は、企業活動、情報管理、人材配置、言論対応、サプライチェーン判断にまで影響し始めた。

 かつて香港は、中国本土とは異なる法制度と自由な情報環境を前提に、外資系企業の地域統括拠点として機能してきた。だが国家安全維持法以降、その前提は大きく揺らいだ。

 中国政府が国家安全を理由に、ビジネスの周辺にある情報、言論、人の移動、企業の判断にまで介入し得ることを示した最初の大きな転換点だったのである。

7月1日施行の民族団結法の
影響力を見誤ってはいけない

 2026年7月1日、「民族団結進歩促進法」(以下、民族団結法)が正式に施行される。香港国家安全維持法のときのように、この法律の影響力を見誤ってはいけない。

 今回、外資系企業の中国担当責任者が直面するのは、新しい条文ではない。もっと根本的な選択だ。「中国の法律に従うかどうか」ではない。「習近平の世界観を受け入れるかどうか」という選択である。

 多くの分析は「また中国の弾圧法だ」という文脈でこの法律を論じている。しかしその理解のままでいると、本当に重要なものを見落とすことになる。なぜなら、この法律は民族政策ではなく、中国が世界とどのような関係を築こうとしているのかを示す法律だからだ。