貯金はまだ
切り崩してはいけない

 最近何がショックかというと、税理士たちの、

「これからは貯金を切り崩して生きていってください」

 という言葉は効いた。

「もうお前は年寄りなんだから、命を切り崩していけ」

 と言われているようなもの。

 お金のことは言いたくないが、日大の理事長になってから、年収は見事に半分以下になった。

 書く仕事をほとんどしないからあたり前だ。それでいて出ていくお金は同じ。個人の秘書もいればお手伝いさんもいる。人にもおごらなきゃいけないし、洋服だってばんばん買ってる。

 そうするうち、年に数回の予定納税を払うのが本当につらくなり、税理士さんに相談したら、冒頭の言葉になったのだ。

 それで仕方なく、定期預金の満期になったものを普通預金に移した。その時の私の心理状態をどう説明したらいいのだろうか。

「このまま貯金切り崩して生きていくババアになるの、絶対にイヤ」

 その前にある有名評論家に、

「ハヤシさんは、日大の理事長になって本当に損しましたね」

 と言われむかついたことも大きい。

 私の人生、損をしてるわけ!?

 ヒトさまに指摘されるほど、私ってみじめなわけ!?

 そして私はどうしたかというと、高級ブランド店に行き散財した。円安でものすごーく高くなっているカシミアのコートも買った。前から欲しかった帯も、京都の店から取り寄せた。高い店で何人かにご馳走した。

 生活のために貯金を崩したのではない、とどこかで納得させたかったに違いない。それは老いを認めたくない、という心理でもある。それでどうなったかというと、その後ドラマの原作料や連載をまとめた本の出版で、まとまった額が入ってきたのである。

 確かに私はツイているんだ。世間が、

「火中の栗拾ったばっかりに、大損してバカみたい」

 と思ったって、私はツイているんだ。そう言いきかせるための、一時的な乱暴なお金の遣い方であった。

 確かに私は特殊かもしれない。しかし親しい弁護士さんが、私に向かってある日しみじみ言ったことがある。

「いやあー、80になってこんなに稼げるとは思わなかったねー」

 私も80になったらこうなってみたいものである。

 70では貯金を切り崩すには早い。そう思って生きていきたい。