日本大学の林真理子理事長。日大改革をうたい理事長に就任したが…日本大学の林真理子理事長。日大改革をうたい理事長に就任したが… Photo:JIJI

不祥事が立て続き、志願者数が激減する日本大学。その日本一のマンモス大学の改革をうたって鳴り物入りで理事長に就任したのが林真理子だ。就任から3年目に突入したものの、改革が進むどころかアメフト部の薬物事件や重量挙部の授業料詐取と不祥事は相変わらず。当の林理事長は人気取りのイベントに大金を投じ、不可解人事を連発するなど、その評判は地に落ちている。「魔窟」の今を明らかにする。(ノンフィクション作家 森 功)

「ちゃんこ料理」が「お菓子」に代わっただけ?
大金投じて人気ドーナツの無料サービス拡大へ

「日大(日本大学)本部では2024(令和6)年の年の瀬、次年度以降も『スマイルキャンパスプロジェクト』を継続させると決定したようです。しかも、来年度からは芸術学部だけでなく、なるべく多くの学部に広げようと、16学部のうち希望する学部にドーナツを配り、その費用を割り振る方針だと聞きました。『これでは、ちゃんこ料理屋が菓子屋に代わっただけじゃないか』と学内の評判は散々です」

 年始早々、多くの幹部職員や教員、OBがそう嘆いている。これが、林真理子理事長の卒業した芸術学部で始まったスマイルキャンパスプロジェクトに対する偽らざる学内の評価ではなかろうか。

 日大のウェブサイトで24年4月17日、「日大生×ドーナツ スマイルキャンパスプロジェクトが始動」と次のように書き、くだんのイベントが始まった。

「学生たちの笑顔で大学を明るくしたいという思いから、大学生世代を中心に大人気の『I'm donut?』様にご協力いただき、昼休みにドーナッツ300個を配布しました。昼休みに実施し、配布ブースには大勢の学生が詰めかけました。音楽学科の上村さや香助教によるパフォーマンスや、林理事長や大貫進一郎学長、川上央芸術学部長らも参加しました」

 林理事長がいたく熱を入れているイベントだ。評判の「I'm donut?」は渋谷や原宿など都内に数店舗あり、どこも長い行列ができるほどの人気店である。ちなみにスタンダードのアイムドーナツは238円だから、300個なら1日の売り上げが7万1400円也。今のところ無料サービスなので、ドーナツ代をはじめとした販売費用は大学側の負担になるのだろう。今年、このイベントをどこまで広げるつもりなのかにもよるが、たかがドーナツと侮るなかれ。1日10万円の費用としてひと月で300万円、仮に16学部全てでドーナツプロジェクトをやれば、ひと月4800万円の出費となる。

 目下、日大は厳しい運営環境に置かれている。23年8月に発覚したアメリカンフットボール部の薬物事件の処理が終わらないまま、24年7月には重量挙部の特待生授業料詐取が判明し、この先、捜査が始まる。また1000億円を超える付属病院の建て替え費用を巡り、経理上の問題も浮上、それらの不祥事に比例するかのように入学志願者が減り、今年も元に戻らない。ハッキリ言ってドーナツの無料サービスどころではないはずだが、サイトで終わりに「今後は他学部でも実施する予定です」とある。

「もしドーナツ店を学内に出せば、あの悪名高い日大事業部が取り仕切ってきたキャンパス内の自動販売機事業より儲かるかもしれない。しかし、そもそもこのイベントは業者の入札はもとより、見積もり合わせすら行っていない。となれば、各学部は林理事長が決めた業者(ドーナツ店)の言い値で購入させられることになります。大学が置かれている状況を考えると、砂糖まみれの油揚げ菓子を嬉々として学生に配るその神経が理解できません」(ある大学職員)

 日大改革をうたって鳴り物入りで22年7月に理事長に就任して以来、林真理子が取り込んだ目玉政策が日大事業部の解体だ。ワンマン理事長として聞こえた田中英壽が取り仕切ってきた事業であり、元アメフト部のエースだった井ノ口忠男が、田中に認められてキャンパス内の自動販売機設置を一手に担ってきた。結果、日大は背任事件や脱税事件に塗れたのは周知の通りである。

 脱田中を目指した新理事長が日大事業部を目の敵にするのは、改革イメージを高めるためだったのであろう。23年1月30日付の「日本大学新聞オンライン」は「日大事業部が解散」と題してこのように報じた。

「同社は2010年、同法人が100%出資して設立した事業会社。井ノ口忠男元理事らによる背任事件の舞台となったことから、昨年4月7日に同法人が文部科学省宛てに出した文書『学校法人日本大学の前理事長及び元理事に係る一連の事案に対する本法人の今後の対応及び方針について(回答)』で、同社の昨年末での解散が示されていた」

 田中英壽が理事長に就任した2年後の10年以来12年続いた日大事業部は、日大帝国に君臨した田中肝いりで設立された。それだけに、諸悪の根源のように見られてきたといえる。22年12月会社そのものが消滅し、林真理子はこれが日大改革最大の成果だ、とみそを上げた。

 だが意外にも、大学内部からは称賛より、むしろ不安の声が聞こえてくるのである。