悲しみを後回しにしたことの代償

その後、今度はパートナーが亡くなりました。全く予期していなかったうえに、クリニック開業というタイミングだったため、より一層ショックは大きいものでした。

しかしこの時は、父の件があったため、「自分はどれほどのダメージを受けるのだろう」と警戒して自分を観察していました。すると意外なことに、最初はそこまで引きずらずに済みそうな感覚があったのです。「思ったよりも気持ちの整理ができるかもしれない」と感じました。

ところが、それは間違いでした。寂しさを打ち消すように仕事に邁進しつつ、様々なことをやり過ぎてしまい、その反動で1年後くらいに重いうつ病になってしまったのです。

その時、友人に言われた「悲しむのを後回しにしているように見えたよ」という言葉が強く心に残っています。悲しんでいる余裕がないからと後回しにしても、その分のツケは後から確実にやってきます。

心の傷は「大怪我」…数年間は療養期間と心得る

では、大切なものを失った時は、どのように過ごすのが一番良いのでしょうか。

それは、「失ったダメージから持ち直すまでには、数年間はかかる」と頭に置いておくことです。これに例外はないと思ったほうがよいでしょう。「たまたま楽だった」「意外と平気だった」ということはありません。それが本当に自分にとって大切なものであれば、数年間は心の傷を癒すためのタイミングだと覚悟したほうがいいです。

その間は、もっと頑張れそうだと思ったり、感情的になって予定を詰め込みたくなったりしても、全てやめてください。普段の半分のエネルギーでも生きていけるように日常生活を組み直し、それ以上は動かないことです。「今は心のダメージから回復するための数年間が始まったのだ」と認識し、すべてセーブ気味で過ごすようにしてください。

目に見えないダメージを自覚し、回復にエネルギーを注ぐ

大切なものを失うということは、精神的な外傷(トラウマ)です。

例えば、交通事故に遭ったり、スキー場で転んで骨折したりといった体の外傷であれば、「傷が治るまでは療養するしかない」と諦めがつくでしょう。しかし、大切なものを失った時の心の傷は目に見えないため、体は普通に動いてしまいます。その結果、無理をしてしまい、後からひどい状態になってしまうのです。

目に見えないだけで、大切なものを失った瞬間、脳の神経回路は大ダメージを受けています。つまり、大怪我をしているのです。大怪我から治るまでは数年かかります。今は大怪我をしている状態だという前提で生活を送ってください。

これまでと同じように何でもこなすことはできません。遊びだろうと仕事だろうと、「現在は入院中・療養中である」というつもりでスケジュールを組み、自分が回復することにエネルギーを注ぐべきです。

私自身、パートナーを失った後に余裕があると勘違いし、無理をしてうつ病になってしまったという反省があります。大切なものを失った時は、脳がその状態に追いつくまでに必ず時間がかかります。例外なく、どなたであっても、そのつもりでゆっくりと時間をかけて回復を待つことが一番よい過ごし方だと思います。