古い時代の中国語の発音については、今から約1000年前の1008年に作られた『広韻』という韻書が残っていることによって、非常に正確に発音やその枠組みを知ることができます。
『広韻』は1008年に作られたものですが、それよりも約400年前に作られた『切韻』(601年)という韻書の枠組みをほとんど変えることなくそっくり写し、字や字の解説を増加させたものなので、『広韻』を分析してわかるのは隋唐時代の中国語の発音とその枠組みであるということになります。
その発音引き辞典『広韻』には26000字もの字を収録していますが、それらは同じ発音の字ごとにまとめられて掲載されています。
漢字は1文字が1音節なので、同じ発音とはつまり同じ音節であることを示しているのですが、その同じ音節ごとに字をまとめるとなんと3800以上のグループができます。
つまり、当時の中国語の音節数は3800以上もあったということで、現代日本語の音節数が120程度と見積もられていることから考えると圧倒的な音節数です。
ともかくも、その同じ発音、つまり同じ音節のグループのことを専門用語では「小韻」と、そしてそのグループの冒頭にあげられた漢字のことを、「小韻代表字」と呼びます。
「卑」と「邪」は
音で選ばれた
さて、尾崎氏によって提示された「邪馬台国」「卑弥呼」にはわざとよくない字が使われているという説への反論は次のようなものです(注1)。
いわゆる「魏志倭人伝」(注2)には当時の日本の固有名詞が「卑弥呼」「邪馬台国」などと漢字で音訳されている。その音訳に使われた漢字66字のうちの53字が、韻書『広韻』(宋・陳彭年ら、1008年)の小韻代表字であり、その割合は約80%である(図1)。
同書より転載 拡大画像表示
(注1)尾崎雄二郎1970「邪馬台国について」『人文』(京都大学教養部)16。尾崎雄二郎『中国語音韻史の研究』(創文社、1980年所収)
(注2)『三国志』「魏書」巻三十東夷伝の倭人条







