尖閣を巡る省庁横断会議で
国交省から「もう発言しないで」
さらに、日本の官僚機構は徹底した「縦割り構造」を持つ。各省庁は自らの所掌事務と予算を守ることを最優先し、その範囲内での部分最適化を目指す。省庁間の調整は、多くの場合、「どこまでが誰の権限か」「予算をどう分けるか」という利害調整にとどまり、「国家としての全体最適」を起点とする議論にまでなかなか踏み込めない。
外交・安全保障政策は、本来、外務、防衛、経産、財務、内閣官房など複数の省庁にまたがる総合分野であるにもかかわらず、縦割り行政の下では、それぞれの縦列の論理が優先される。その結果、「各省庁が譲り合って損失を最小化した案」は生まれても、「日本全体としての利益を最大化する戦略」は生まれにくい。
『「力の時代」を生き抜く 戦略的思考』(垂 秀夫、文藝春秋)
さらに驚くべきことに、こうした縦割り行政は各省庁内にも存在する。「局があって省は存在しない」と言われることもあるが、こんなエピソードもある。
ある時、内閣府が主催する尖閣問題の省庁横断会議で、私は「海上保安庁の予算を増やすべきだ」と発言したことがある。尖閣周辺の海域で中国公船の活動が活発化してきたことを受けての提案であった。ところが、2回目の会議で同じ主張をしたところ、会議後、国交省幹部が私に「もう発言しないでいただきたい」と小声で要請してきた。国交省に属する海上保安庁の予算が増えれば、そのぶん他の国交省予算が減る可能性があるからである。
このようにして、官僚機構は有能で献身的な個人を抱えながらも、構造としては戦略的思考を生み出しにくい仕組みになっている。







