「日本の労働者のざっくり半分は、成り行き任せにただ漫然と生きている」――そんな衝撃的なデータを示すのは、ベストセラー著者の山口周さんです。20年にわたり経営コンサルティングの世界で活躍してきた山口さんが、経営学の知見を「人生というプロジェクト」に活用する方法をまとめたのが『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』です。なぜ多くの日本人は、これからの難しい時代への「構え」が取れていないのか。その理由を聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

「人生を後から後悔する人」の共通点・ワースト1Photo: Adobe Stock

半数が「キャリアプランを考えていない」

――日本人はキャリアに関して将来への備えができていない、というデータがあるそうですね。

山口周氏(以下、山口):人材サービス企業のアデコが2016年に日本で実施した調査では、「将来的なキャリアプランを描いていますか?」という質問に、男性の49.1%、女性の42.5%が「特に考えていない」と回答しています。

また、パーソル総研が2024年に行った調査では、「業務時間以外で、将来のために何らかの勉強をしていますか?」という質問に、56.1%が「全くしていない」と答えています。

つまり、日本の労働者のざっくり半分は、将来のキャリアを考えることも、自主的に勉強することもなく、その日その日の仕事をこなしながら成り行き任せに生きているのです。

これでは人生を振り返ったとき、「後悔しかない」状況になりかねません。これからやってくる日本の状況を考えれば、驚くべきことだと思います。

「だまって俺について来い」が正解だった時代

――なぜ、そうなってしまったのでしょう。

山口:「自分の人生について戦略的なパースペクティブを持たない」という思考様式そのものが、成長を前提とした時代の遺物なんです。かつては、むしろ「考えない」ことが求められましたから。

高度経済成長期を代表するコメディアン、植木等さんの「だまって俺について来い」をご存じですか?この曲が大ヒットしたのは1964年です。

この年の経済成長率はなんと11.7%。およそ6年で国民の平均所得が倍増する成長率です。歌詞は「ぜにのないやつぁ俺んとこへこい」で始まり、「そのうちなんとかなるだろう」で終わる。全く意味がわからない(笑)。でも、当時はこれが正しい思考様式・行動様式だったんです。

平均成長率が11.7%ということは、一年間動かずにいれば、世の中全体はそれだけ前に進んでしまうということです。あれこれ悩むより、目の前の選択肢に飛びついてとにかく頑張るのが最も合理的だったのです。しかし、そのような時代は終わりました。二度とやってくることはないでしょう。

社会の衰退は「個人の活力の喪失」から起きる

――考えないまま、とりあえず頑張り続けていると何が起きますか?

山口:個人も社会も良くなるどころか、衰退します。

経済学者のアルバート・ハーシュマンは、組織や社会を健全に機能させるには「発言と離脱」の2つが重要だと指摘しました。間違っていると思うことに声を上げ、間違っていると思う場所からは離脱する。

社会の問題は、リーダーが解決してくれるものではなく、一人ひとりが自分の頭で考え、発言し、離脱することで初めて改善されるんです。

不遇な状態でも不満を出さず、ひたむきに努力を続けることを美徳とする風潮が日本にはありますが、ハーシュマンに言わせれば、それは社会を停滞させる無責任で怠惰な考え方でしかありません。

歴史家のアーノルド・トインビーも、社会衰退の最大の要因は「自己決定能力の喪失」だと論じています。私たちは「自分で考え、自分で決める」という気概を失うことによって滅びるのです。