「きれいごとでは食えない」のか、それとも「きれいごとこそ儲かる」のか。『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは、経済的価値と社会的価値の関係をめぐる長年の論争に、近年の研究は一定の答えを出しつつあると指摘します。就職・転職先を選ぶ基準にも直結する、この論争の行方を聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

「儲かる会社」と「社会にいい会社」、長期的に繁栄するのはどっち?Photo: Adobe Stock

ポーター論文の「混乱」

――企業の目的は経済的価値を生み出すことですが、近年はそれだけでなく社会的価値についても求められています。企業が社会的価値を追求すべきだ、という議論はいつ始まったのでしょうか。

山口周氏(以下、山口):社会的課題の解決と企業の競争力強化を両立させ、企業と社会がともに利益を得られるWin-Winの関係を形成することで、長期的な持続可能性を実現することを目指すのがCSV競争戦略です。

CSVのコンセプトが最初に提案されたのは、2011年初頭に『ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載されたマイケル・ポーターの論文「Creating Shared Value」です。「社会価値と経済価値の両方を追求することが次世代の資本主義の理想像である」と主張した、画期的な論文でした。

――一時期「企業の社会的責任」、CSRということがよく言われていましたが、それとは違うのですか?

山口:はい、違います。CSRの定義は欧州・米国・日本でそれぞれ微妙に違うのですが、主流は「ビジネスでは創出の難しい社会的価値を創出する企業の責任」という考え方です。

一方、CSVは「ビジネスを通じて、経済的価値と社会的価値を同時に創出すること」を目指しているのです。

3つの仮説、答えはどれか

――あらためて、経済的価値と社会的価値はどういう関係にあるのでしょうか。

山口:仮説としては3つ成り立ちます。

①経済的価値を実現すれば社会的価値は自ずと実現される、②社会的価値を実現すれば経済的価値は自ずと実現される、③両者はトレードオフで両立は難しい、の3つです。①はすでに現実によって否定されているので、問題は②と③のどちらが正しいかです。

結論から言えば、近年の研究の多くは②の「社会的価値を実現すれば経済的価値は自ずと実現される」が可能だということを示しているようです。

例えばハーバード・ビジネス・スクールのロバート・エクルズらの研究では、サステナビリティポリシーを設定し厳格に実行している企業の長期財務パフォーマンスは、そうでない企業より2.2~4.5%高かったことが明らかになっています。「社会的利益の創出は最終的に経済的利益となって還元される」と結論づける研究は、近年増加してきています。

「社会的価値」は経済的価値の大前提になる

――社会にいいことをしている会社のほうが、長期的に見て儲かりやすいということですよね?

山口:昨今の社会情勢を見ても、そう言えそうです。

近年、投資家の「社会的倫理観」が高まっており、市場の外部性に頼って社会や環境に負荷をかけるビジネスは、少しずつ資金調達が難しくなっています。投資家が「投資の倫理」を今後より強く意識するようになると考えれば、「社会的価値」は「経済的価値」を創出する上での大前提になると考えられるのです。