異次元緩和でもゼロ%アンカーは残った
2%目標でも消えなかったデフレの「ノルム」
図3は、各時点におけるゼロ%への過剰な確率集中を計測したものである。ここでは、ゼロ%の確率が、その周辺の分布から推計される確率をどの程度上回るかを計測した結果を示しており、その意味で「過剰」である。
この指標は2013年春に大きく低下したが、その後は再び上昇した。インフレターゲティング導入前の水準まで戻ることはなかったものの、「物価は上がらない」という予想が、異次元緩和の下でもなお根強く残っていたことが分かる。
黒田総裁は23年の退任時、長年のデフレを経て「賃金や物価が上がらないことを前提とした考え方や慣行、いわばノルム」が根強く残り、2%目標の持続的・安定的な実現に至らなかったと総括した。この「ノルム」は、ここでいうゼロ%アンカーとかなり重なる。
ゼロ%アンカーは、先述の通り、物価安定には寄与した。しかし、日銀がデフレ脱却を目指す段階では、逆に金融政策の障害となった。
外部からインフレ圧力が加わってもインフレ予想が動きにくいというゼロ%アンカーの性質は、金融緩和によってインフレ予想を引き上げようとする局面では、その効果を弱める方向に働くからである。
通常であれば、中央銀行が金融緩和を将来にわたって継続すると約束すれば、将来のインフレ率が高まるとの予想が生まれ、その予想の変化が足元のインフレ率を押し上げる効果が期待できる。
ところが、ゼロ%アンカーの下で、人々が「結局、物価は上がらない」と信じ続ければ、中央銀行が金融緩和の継続を約束してもインフレ予想は高まらない。その結果、足元のインフレ率を押し上げる力も弱まる。








