「本当に2%へ戻す」と信じてもらえるか
アンカー構築には政策のトラックレコードが必要

 なぜ2%へのリアンカーが進んでいないのか。

 制度面だけを見れば、2013年以降、日銀は2%の物価安定目標を掲げており、すでに必要な枠組みは整っている。一方で、不足しているのが、政策のトラックレコードである。

 インフレ率が目標を上回った際に、中央銀行が金融を引き締め、物価上昇率を実際に2%近辺まで引き戻す。その経験が繰り返されれば、人々は「ショックでインフレ率が一時的に上振れても、最終的には2%に戻る」と信じるようになる。

 実際、欧米の主要中央銀行は、21年以降の高インフレに対して矢継ぎ早の利上げを行い、インフレ率を引き下げてきた。これに対し、日銀には、高すぎるインフレ率を2%まで引き戻した経験が欠けている。

 黒田総裁が在任した10年間は、そもそもインフレ率を2%まで引き上げることが課題であり、引き締めの出番はまったくなかった。

 一方、植田総裁の下では利上げが進められてきたものの、政策運営の主眼は引き続き、低すぎるインフレを「育てる」ことであり、過度なインフレを抑え込むインフレファイターとして振る舞うことはなかった(詳細は『植田日銀は「受動型」政策運営から転換するのか?テイラールールで検証する“2%インフレ時代”の利上げ判断と春闘の重要性』を参照)。

 家計から見れば、「インフレ率が大幅に上昇したとき、日銀は本当に2%まで戻すのか」という問いへの答えを、実際の政策行動からまだ確認できていない。

 この信認なしに、2%アンカーを形成することは難しい。