それから彼は、選手が主体的に練習するように指導法を変えた。また、高校野球のリーグ戦である「LIGA Agresiva」にも参加。選手たちが楽しく野球をするようになり、野球部の雰囲気は変わった。筆者はこの指導者が「先生はこう思う、君らはどう思うんだ?」と選手と話し合いをしながらチーム運営をするのを見るのが好きだった。

 しかしある年、この監督は野球部を外された。教師としては学校にとどまったが、野球部を指導することが出来なくなった。おそらく、学校の経営陣はこの指導者の指導を「手ぬるい」と思ったのだろう。「こんなんじゃ何年たっても甲子園には出られない」と言う声が上がって解任されたと考えられる。

改革を行うことは
恩師の否定と同義

 筆者の元には、高校野球の不祥事の内幕や、理不尽な処分などの情報が入って来る。ある高校指導者は、見学に来た中学生に、甲子園出場時のペナントをプレゼントしたことを見咎められて、日本学生野球憲章(指導者による学生野球資格を持たない者に対する金品提供の禁止)違反として2年間の謹慎処分を受けた。ライバル校の関係者からの「タレコミ」があったのだ。

 筆者はこのことについて記事にしたが、掲載した日に、プレゼントを受け取った中学生の親から「訴えると言われているから記事を取り下げてほしい」と懇願され、削除した。この監督も進歩的で、注目を集めていたが、それだけ敵も多かったのだ。

 多くの場合、いわゆる「進歩派」「改革派」と言われる高校野球指導者の立場は非常に危うい。今どき世間一般では、ほとんどの人が賛成するであろう「指導方針」が、地方の狭い高校野球界では必ずしも賛同されず、支援されていない。なぜなら「改革路線」は、前任者、つまりその指導者の恩師や先輩の指導方針を否定することになるからだ。

 2025年11月に急逝した東北高前監督の佐藤洋は、選手の丸刈りを廃止し、選手の自主性を尊重する革新的な指導法で知られていた。筆者は2023年に話を聞いて記事にしたが、掲載に際して非常に神経質になっていた。自身の主張が世に出ることを恐れているかのように見えた。