会社を辞め、家を売り、無線機も持たずに航海に出た夫婦。自作した船でイギリスからニュージーランドに向かったが、ガラパゴス沖で突如クジラに襲撃され海に投げ出された。事実は小説より奇なり。118日間、生死をさまよう最上級のスリルと人生模様を堪能できる全米ベストセラー『極限の漂流118日間』から、「海のサバイバルをくぐり抜けた人だけがわかった世界一大切な仕事」についてライターの小川晶子氏が特別レポートする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)
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ルーチンワークから逃れたい?
毎朝5時半に起きて日記を書き、メールチェックと返信。その後、ニュースを見ながら朝食をつくって食べる。洗濯機を回す。身支度……。
日々繰り返す定型の活動がある。
ルーチンになっていれば、自然に次の行動にうつることができて効率がいい。いちいち「次は何をしよう」と考える必要がなく、ストレスを減らせる。
だから、ルーチンを大事にしている人も多いだろう。私もその一人だ。
一方で、ルーチンから逃れたいと思う自分もいる。
好きな時間に起き、気の向くままに好きなことをして、何にも縛られずに過ごせたらなぁ。
仕事や家事をしなくていいなら、ルーチンなんて必要ないんだから……。
ルーチンが生きる支えになる
そんなふうに思っていたが、何もすることがないときこそ、ルーチンが重要なのかもしれない。ルーチンが心を健康に保ち、生きる力をくれることがある。
『極限の漂流118日間』(ソフィー・エルムハースト著/村井章子訳)は、イギリス人夫婦が太平洋で遭難し、極限状態から生還したノンフィクションだ。
遭難する前、船の上ではやることがいっぱいあった。たったふたりの航海だが、役割は明確に決まっていた。
夫モーリスは船長、航海士、機関士。念入りに船体やエンジンの点検をし、手入れをするのもとても重要な仕事だ。
妻マラリンはロジスティックスとギャレー担当。つまり、食材や必要な物品の調達から管理、点検、食事と飲みものの提供をする。
船での食材保管は簡単ではなく、缶詰には錆防止のニスを塗ったり、果物は一つひとつ新聞紙でくるんで定期的に転がしたりする必要がある。
航海中の一日の食事を正確に計算することも大事だ。
ところが、太平洋を航行中、クジラとの衝突で船に穴が開き、ふたりは船を失ってしまう。
小さな救命ラフトとゴムボートで脱出し、漂流することとなった。
生きるとは、日々同じことの繰り返し
沈む船からできる限りのものを救い出し、ラフトに載せたものの、食材も物品もわずかだ。
もう操縦する船がないのだから、モーリスもやることがない。
ただただ、流されるしかないという状況である。
ふたりはルーチンから強制的に解放されてしまったのだ。
そこで取った行動とはどんなものだったか。
さんざん泣いてしまうと、マラリンはやるべきことに立ち返った。朝である。よって、朝食をとらなければならない。ビスケットを数枚取り出し、マーガリンを塗り、その上にマーマレードを載せる。
――『極限の漂流118日間』より
やけになったりせず、流れに身を任せるままにせず、きちんとルーチンをこなそうとするのだ。
マラリンは全財産の目録をつくり、整理整頓をし、食事の計算をした。
狭いラフトではふたり同時に寝ることができないので交代で睡眠をとる。寝ないほうは夜の当直である。
漂流期間が長引くにつれ、ふたりはガリガリに痩せて衰弱し、寝ずの番をするのが辛くなってきたが、それでも当直をやめなかった。
船の乗組員にとって当直は最も重要な仕事だと心得ていたから。
日々、同じ仕事を繰り返すことが、絶望から自分たちを救い、生きようとする力を保ってくれたのである。
考えてみれば、生きるということは日々同じことの繰り返しだ。朝起きて、食事をとり、夜には眠る。地球も太陽も毎日同じように動いてくれている。
本書はルーチンの意義や生きることについて新たな洞察を与えてくれる。








