ANAが打ち出したスーパーフライヤーズカード(SFC)の制度改定は、経営学の視点から見ると「改悪」と言えるのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA
カード決済額によって特典を制限
ANA「SFC改革」への批判
前回の「エレキの深層」では、アメリカン・エキスプレスが生み出す体験価値を題材に、サービスの量的拡大と質の維持をどう両立するかという問題を考えた。顧客が増えれば売り上げや利用額は伸びるが、一人ひとりにきめ細かな対応をすることは難しくなる。より多くの顧客へ効率よくサービスを提供することと、それぞれの顧客に効果的な体験を提供することの間には、しばしばトレードオフが生じる。
この問題はクレジットカードに限らない。ホテル、旅行、医療、小売りなど、人を介して価値を提供するサービス産業に共通する経営課題である。今回は、そのもう一つの事例として、ANAが進めようとしているスーパーフライヤーズカード(SFC)の制度改革を取り上げたい。
ANAが発表した改革案には、既存会員を中心に強い反発が起きた。長年受けられると考えていた特典が、将来はカードの年間決済額によって制限される可能性が示されたからである。顧客の立場から見れば、不満が生じるのは当然だろう。
ただし、経営学の観点から見ると、この改革を単純に「改悪」と片づけることもできない。むしろANAが直面しているのは、限られたラウンジや優先サービスの質を守りながら、拡大した会員基盤をどう維持するかという、サービス産業に典型的な「量と質」の問題だからである。
SFCはなぜこれほど
支持を集めたのか
SFCは、ANAの上級会員向けサービスを継続的に利用できるクレジットカードである。一定のプレミアムステイタスを獲得するなどの条件を満たして入会すれば、カードを保有し続けることで、優先チェックイン、優先搭乗、手荷物の優先受け取り、空港ラウンジなどのサービスを受けられる。
この仕組みの魅力は、飛行機に頻繁に乗って上級会員資格を獲得した後、翌年以降の搭乗回数が減っても、カードを保有することで上質なサービスを継続して利用できる点にあった。企業にとっても、一度獲得した優良顧客との関係を長期化し、カード利用や将来の搭乗へつなげられる。顧客と企業の双方に合理性がある制度だったと言える。
一方で、制度設計時には十分に想定されていなかった行動も広がった。SFCの入会資格を得ること自体を目的に、短期間に集中的に搭乗する、いわゆる「マイル修行」である。この行動を否定する必要はない。公表されたルールの中で、顧客が合理的に行動した結果だからだ。
とはいえ、SFC保有者が増え続ければ、ラウンジや優先搭乗の列が混雑し、本来は待ち時間や移動のストレスを減らすはずのサービスが、その価値を失いかねない。優良顧客を多く囲い込むことには成功しても、囲い込んだ顧客へ提供する体験の質が低下する。ここに制度の成功が新たな問題を生む逆説がある。







