「伝え方」を磨けば、コミュニケーションはうまくいく。そう考えがちですが、その前にやるべきことがあります。それは、自分が世界を「理解する」こと。実はコミュニケーションは、誰かに話しかけるよりもずっと前から始まっています。本記事では、書籍『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』の中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「伝えること」以前に、もっと大切なこと・ベスト1

「伝え方」ばかりを考えていないか

「どうすれば、わかりやすく伝えられるのか」

 コミュニケーションについて考えるとき、私たちはつい「伝える側」の技術に注目します。

 でも、もっと根本的なことがあります。
 それは、そもそも自分が何を見て、何を知っているかです

 どれだけ話し方がうまくても、自分の頭の中に何もなければ、話せることはありません。

 反対に、いろいろなものを見て、経験し、世界について理解している人は、それだけ多くの人と「共通理解」を持てる可能性があります。

 つまり、コミュニケーション能力は、実際に誰かと話している瞬間だけにつくられるものではないのです。

立ち位置が変われば、見えるものも変わる

 自分とは違う人が見ているものを見てみる。
 すると、それまでとは少し違った角度から世界を見ることができます。

立ち位置が変わると考えも変わります。
この感覚を最もわかりやすく得られるのが、自分が尊敬する人が見ているものを見たときなのです。
そしてこれは、別の誰かとコミュニケーションをするときに役に立ちます。
視野を広げた先で見たものが、別の人との「共通理解」になるかもしれないからです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 尊敬するAさんを理解するために見たものが、まったく別のBさんと話すときに役立つことがある。

 たとえば、尊敬する人が紹介していた映画を観てみた。
 その映画をきっかけに、ある国の歴史に興味を持った。
 歴史を調べているうちに、その国の政治や文化についても少し知った。
 すると数年後、その国の人と会ったときに、話せることが増えているかもしれません。

 最初は、誰かを理解しようと思って始めたことです。
 ところが、それによって自分の世界への理解が広がり、結果的に別の誰かとの距離まで縮めてくれるのです。

「何を話そう?」より先に、世界を知っておく

以前、アメリカ人に会ったとき、話したのは「今の大統領をどう思うか?」でした。
ニュースで見る「支持率」や「世論」ではなく、実際にどう思うかを本当に聞きたかったのです。そこでの会話は、太平洋戦争にも及びました。
私がその話をしたのは、そのアメリカ人も大統領や歴史については知っているはずで、「共通理解」がそこにあると思ったからです。
大袈裟な言い方になりますが、世の中の人間はみんな、同じ世界に生きています。
だから、世界に対する理解が深まれば、本当は誰とでもふつうに話せるのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 ここで重要なのは、「アメリカ人とうまく話すためのテクニック」を使ったわけではないことです。

 大統領について知っている。太平洋戦争について知っている。相手もそれを知っている。
 だから、その「共通理解」の上で会話ができるのです

 もし何も知らなければ、質問することさえ難しくなります。

 相手が何を知っているのかもわからない。
 何について聞けばいいのかもわからない。
 聞いたとしても、その答えを理解できない。

「会話が続かない」という現象は、話し方の技術以前に、お互いのあいだに橋をかけられるだけの共通理解がないことによって起きる場合があります。

世界を知れば、話せる相手が増えていく

 考えてみれば、私たちが誰かと簡単に話せるのは、共通理解があるからです。

「昨日、すごい雨だったね」という何気ない会話だって、同じ地域で同じ天気を経験したから成立しています。

 つまり、私たちは何かを共有しているときに、話しやすくなるのです。

 では、知らない人と話すにはどうすればいいのか。
 自分の知っている世界を広げておけばいい。

 歴史を知る。映画を観る。本を読む。旅行をする。人の話を聞く。知らない街を歩く。ニュースを見る。自分とは違う世代の人が見ているものを見てみる。

 そうやって自分の頭の中にあるネットワークを広げていけば、どこかに相手との接点が見つかる可能性が高くなります

 世界について知ることは、そのまま「話せる相手」を増やすことでもあるのです。

「ふつうに知ってる」が会話を支えている

 ただし、何でも詳しく知っている必要はありません。

「みんなに伝わる方法はあるのか?」
その答えは、実は、私も含め、みなさんの日々の振る舞い次第です。
私たちが世界について少し理解すれば、話し手が伝えるための共通理解も増えます。
「うどん」を知っているから、どのうどんが美味しいか話せる。
「ふつうに知ってる」と思うところが、共通理解のラインです。
このラインを押し上げるか、押し下げるかは自分自身の態度で変わるのです。
だから、コミュニケーションは「伝える」よりずっと前からはじまっています。
伝えるよりもずっと前に、「理解する」があります。
私たちが何かを見る。経験して、世界を少し理解する。
そこからすでに、コミュニケーションははじまっているのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

「うどん」というものを知らない人に、「讃岐うどんと稲庭うどん、どっちが好き?」と聞いても答えられません。

 でも、両方食べたことがある人なら、「私はコシがあるほうが好き」「いや、細くてツルッとしたほうがいい」と会話が始まります。

 同じものを知っている。その上で、感じ方が違う

 実は、この「同じものを知っているけれど、感じ方が違う」という状態こそ、会話が面白くなるポイントでもあります。

 全部同じなら、話す必要がありません。全部違えば、話が通じません。
 共通理解があって、その上に少し違いがある。だから、「あなたはどう思う?」と聞けるのです。

コミュニケーションは、会う前から始まっている

「コミュニケーション能力を高めたい」

 そう思ったら、話し方の本を読むのもいいでしょう。言語化のトレーニングをするのもいい。質問力を磨くのもいい。
 でも、それだけではありません。

 映画を一本観ることも、コミュニケーションの準備です。
 知らない場所へ行くこともそう。
 自分とは違う人の話を聞くこともそう。
 尊敬する人が見ているものを、自分でも見てみることもそうです。

 その瞬間には、誰とも話していません。
 でも、そこで見たものが、いつか誰かと話すときの「アレ」や「コレ」になる

「それ、私も知ってます」

 そこから会話が始まるかもしれません。
 そう考えると、コミュニケーションとは「人と話している時間」だけを指すものではないのです。

「伝える」の前に「理解する」

 私たちは、「伝える」ことをゴールにしがちです。

 でも、その前にやることがあります。
 見る。聞く。知る。経験する。そして、理解する。

 そうやって自分の中に「世界」を増やしていく。

 すると、誰かと出会ったときに、「この人とは何も話すことがない」と思っていたところに、思いがけない共通点が見つかるかもしれません。

 コミュニケーションは、「何を言うか」を考えた瞬間から始まるのではありません。

 何を見るかを選んだ瞬間から、すでに始まっています。
 伝えることより前に、理解すること。

 世界を少しずつ理解して、自分の中に「ふつうに知っていること」を増やしていく。
 それが、結果的に多くの人とつながるための土台になります。

「伝える力」を磨く前に、「理解する力」を磨く
 それこそが、コミュニケーションにおいて、もっと大切なことなのです。

ヤギワタル
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。